あなたに一問一答 中村獅童 あなたに一問一答 中村獅童


 歌舞伎の演じ手である歌舞伎俳優たちに、一問一答でインタビュー。さまざまな質問にお答えいただき、歌舞伎への思いからご本人の素顔まで、たっぷりお伝えします。今回は、平成28(2016)年に誕生し、今年初めて全国4劇場で開催される「超歌舞伎2022 Powered by NTT」に出演する、中村獅童さんの素顔に迫ります。


文・構成/歌舞伎美人編集部、インタビュー撮影/松竹ライツビジネス室

―― 今年の「超歌舞伎」のみどころをお聞かせください。

 理屈なしに楽しいこと。『永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)』は、「これは妹背山のあの場面が下敷きになってるのかな」と自然に感じて楽しめます。また、『萬代春歌舞伎踊(つきせぬはるかぶきおどり)は、藤間勘十郎先生がつくってくださる古典舞踊の舞踊劇。そこで初音ミクさんは踊りも披露します。一つの公演のなかに、『超歌舞伎のみかた』があり、踊りがあり、最後お芝居があって…お芝居のなかには歌舞伎の醍醐味でもある立廻りや踊りがあり、これぞ歌舞伎という要素がたくさん盛り込まれています。

―― NTTの超高臨場感通信技術「Kirari!」を用いた演出等、他の歌舞伎では見られないテクノロジーとの融合も「超歌舞伎」の魅力の一つですが、そうした先進技術とともに舞台をつくり出すという点において、演じ手として感じられた難しさについて、教えてください。

 とにかく1回目は、ものすごく大変でした。日頃は阿吽の呼吸で比較的スムーズに出来ることも、歌舞伎に携わるのが初めてのデジタルチームが加わると、歌舞伎特有の「間」の共有や、スタッフ同士の意思疎通の点で難しさがありました。ただ、そこでいい意味でぶつかり合い、最後にはお客さんも‟爆発”してくださって…涙なみだの最終日になって、スタッフ、キャスト、みんなで最後に握手をしたのは今でもいい思い出です。それが、2回目以降につながっていきました。

 演者としても、1回目は、舞台上で横に並ぶとミクさんの姿があまりよく見えなかったり、せりふも舞台上で聞くとエコーがかかっていたり、デジタル特有の呼吸を使うのが、すごく大変でした。重ねていくうちに、デジタルチームも歌舞伎の約束事みたいなことを把握してくださり、技術も年々、どんどん向上して…今はミクさんの美しいお姿がはっきりと見えますし、せりふもはっきりと聞こえるようになりました。

―― 澤村國矢さん、中村蝶紫さん、中村獅一さんをはじめ、お弟子さんが活躍されることも、「超歌舞伎」のみどころの一つですが、皆さんのご活躍について、どのようにご覧になっていらっしゃいますか。 

 これからも、「超歌舞伎」に限らず、歌舞伎の古典の公演でもお弟子さんたちを抜擢する機会がもっと増えていけばという思いを込めて、リミテッドバージョンを企画させてもらいました。やはり、力のある人がどんどんチャンスをつかんでいく歌舞伎界であってほしいと思っています。「超歌舞伎」ファンのなかで國矢さんはもうスターになっていて、非常にうれしいですね。その姿を見て、他のお弟子さんたちも頑張ろうと思ったり、チャンスをつかむ夢を見てくれたらいいなと思っています。

―― 歌舞伎とテクノロジーとのかかわり方について、獅童さんが思い描かれる未来についてお聞かせください。

 下地になる歌舞伎の要素が大事になってくるので、どういったタイプの古典歌舞伎を下敷きにし、デジタルの技術をそこにどう融合させていくかということが大切だと思います。ミクさんにもやってもらいたいお役が、まだまだいっぱいあります。

――歌舞伎をこれからご覧になろうとされる方へ、超歌舞伎もそれ以外も含めて、歌舞伎をどう楽しむのがよいか、おすすめの見方、ポイントを教えていただけますでしょうか。

 歌舞伎は今や伝統芸能と言われていますが、もともとは庶民の娯楽、大衆のエンタテインメント。だからあまり「歌舞伎だから」と言って、勉強してから行こうと思わずに、まずは観に来ていただいて、何かを感じていただきたいですね。どこの劇場に誰が出ているかや、各演目の時間も歌舞伎美人に掲載されているので、劇場に来る前は歌舞伎美人を活用していただいて、劇場では筋書や、イヤホンガイドも使って楽しんでいただく。「超歌舞伎」でもイヤホンガイドがあって休憩中にもずっと音声が流れて、出演者の座談会も入っているので。あまり考えずに、もっと歌舞伎を身近な演劇と感じていただければうれしいです。古典歌舞伎含め、新作の歌舞伎もどんどん誕生していますので。歌舞伎美人で公演情報をよく調べて、これぞというときに、ぜひ観に来ていただきたいですね。歌舞伎はライブですから、まずは劇場で観ていただきたいです。

―― 「超歌舞伎」ファンへの思いをお聞かせください。

 なにより印象的なのは、素直な反応。映像を見ると、カーテンコールで泣いている方がすごく多くて、うれしかったです。初演のときから、ファンの人が声をそろえて「どうもありがとう」と、幕が閉まった後に言ってくれて…毎度熱い気持ちにさせられるというのは、 「超歌舞伎」ならではです。ファンと僕らの間に芽生えた友情を大切にしたいと思うし、僕たち出演者や裏方さんだけではなく、ファンの方たちが、ここまで「超歌舞伎」を育てて大きくしてくれたと思っています。ですから、ファンの方に本当に感謝しています。

 「超歌舞伎」ファンの方たちは、歌舞伎を観たことのない方が大半だったんです。でも、年々大向うが上手くなっている。生配信のときも、歌舞伎に詳しい方がコメントで解説している。それが非常にいいなと思って。屋号は萬屋ですが、今年は僕に「ちちお屋!」、陽喜に「じゅに屋!」という掛け声まで飛び出し…。ファンの方たちは洒落がきいていて面白いなと思います。

 ファンの方たちとの交流の一つひとつが自分の思い出となり、演じるエネルギーにもなり、ものをつくっていく原動力にもなっている。一所懸命これからも精進してやらせていただければと思っています。「超歌舞伎」は自分にとって一つのライフワークのようにもなっているし、実際に自分でもそういう風にしていきたいです。いろいろ新作の構想もあるので。