歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



涼しげな帯と暖かみを感じさせる帯
上旬の帯は、夏の略礼装にも対応する紗袋の帯。透け感があって涼しげですが、柄はしっかり秋を感じさせる草花です。下旬の帯は菊がほどこされた袷の袋帯。おめでたい菊は通年使える柄ですが、秋にまとえば季節感満点。

 

色も素材も季節感をがらりと変えて
上旬の帯揚げは絽ちりめん。風も通してくれますし、そこそこボリューム感もあって、単衣に合わせやすい一枚です。下旬の帯揚げはちりめん。ぐっと秋らしい色合いで、しっとりした落ち着きを与える帯揚げです。

 

目立つからこそ季節感を強調させる]
上旬の帯締めは、盛夏にもよく用いられるレースのものですが、色に少し暖かみがあって、秋口にはぴったりです。下旬の帯締めは袷に用いるもの。平打ちなのでボリューム感が抑えられ、単衣に合わせやすいものです。

 

着心地を左右する重要なポイント
上旬に着る襦袢は絽。下旬は楊柳の長襦袢。つける半衿もそれぞれに合わせましょう。楊柳は肌ざわりがよく、単衣の季節に用いる襦袢向きの素材です。寒さが感じられてきたら襦袢も袷(裏のついたもの)に変わります。

全体を揃えることで季節感は出せる
 同じきものに、夏の帯を合わせてよし。冬の帯を合わせてもよし。しかも、それぞれで、微妙に変わっていく季節感を演出できるなんて、考え方を変えてみれば、単衣のきものは万能といえるのかもしれません。ですが、これを成功させるために忘れてならないのが、帯や小物の季節が揃っているかどうかということ。

 単衣に夏帯、単衣に冬帯はそれぞれOKなのですが、「つまり、単衣の時期は、単衣さえ着ていれば、季節を気にしなくてしていいんでしょう?」ととらえるのは大間違い! 帯を夏ものにしたら帯揚げ、帯締めはもちろん、襦袢、半衿も夏ものです。逆に、帯が冬ものならば、帯揚げ、帯締め、そして襦袢や半衿も透けないものを選ぶのが正解です。

 「9月も後半なので帯は冬ものにしたけれど、残暑がぶり返したので襦袢は絽でも、見えないのだからいいわよね」などと油断すると、袖口からチラリと見えて、あら残念、ということにもなりかねません。いかなるコーディネイトも季節を揃える。――これを肝に銘じてください。


秋を感じさせる色柄を意識して
 基本に立ち返り、単衣というきものが、秋を演出するお召し物であるということは、いつも心に留めておきましょう。夏帯だから帯揚げも夏ものならなんでもいい、というわけではありません。紗など透け感がありすぎるものや、柄が夏を感じさせるものは避けます。着心地は涼しげに、けれど色味や柄で秋を感じさせるのが素敵です。

 逆に、冬帯を合わせる場合も秋を意識した柄、たとえば秋の七草や菊、紅葉、お月見などを選んでみましょう。柄だけでなく、小物に暖色系をもってくるなど、色合わせだけでも秋は演出できるはずです。

単衣を気候に合わせた着こなし
藤色のきものに、夏帯を合わせたバージョン(左)と、冬帯を合わせたもの(右)。帯と小物が変わると、重量感まですっかり変わってしまいます。「暑い季節は苦手なのですが、これなら9月の単衣に挑戦できそう」と、モデルの猪飼敦子さん。

長沼静きもの学院

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