歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



着こなしでも軽やかさを演出

墨流しの帯。裏は白地に銀の麻の葉文様。リバーシブルに使えるように誂えました。帯締には6月の花、アジサイが。

博多織のきものには自分の誕生日、5月30日の花、苧環(おだまき)を織り込んでいただくように依頼したのだそう。

5月後半の涼やかコーディネイト
青木さんが単衣に選んだ反物は墨流し作家の方の手による涼やかな色柄ですが、これが長さ4丈ありました。きものは3丈あれば仕立てられますので、残りの1丈に裏をつけて袋帯も誂えました。季節が夏めいてきたところで、博多織の袷のきものにこの墨流しの帯を合わせると、とてもすっきりとしたコーディネイトに。

 
着こなしでも軽やかさを演出

帯留は季節感を表すのに便利な小物。中でもガラスのトンボ玉はそれだけで涼やか。

墨流しのきものと帯。流水を思わせる色柄で、とても涼しげな夏を表現。

6月になったらきものと帯がお揃いの単衣に
青木さんが初めて誂えた単衣がこちら。白、青、藤色などがすっきりと組み合わされ、流水を思わせる墨流しの色柄がとても涼しげです。4丈物の反物の残りで帯もお誂え。ご本人はお揃いで着るのはどうかしらと思っていたそうですが、着付けてみるととても顔映りのよいコーディネイトになりました。白いトンボ玉を使った帯締、帯揚の組み合わせがほどよいアクセントに。

 
更衣の暦
 日本の更衣をひもといてみると、そもそもは平安時代の宮中行事から始まったようです。中国の習慣にならい、夏服と冬服を替える――。これが「更衣」。“ころもがえ”と読みました。

 その後、着るものの素材や種類が複雑に変化するにつれて、更衣も変わっていきます。今、きもので更衣といえば、6月に袷(あわせ)から単衣(ひとえ)へ。7月に単衣から夏物に、9月に夏物から単衣に戻り、10月からは再び袷の4回。それぞれ月の1日に替えるのが基本です。ただし、必ずしも暦の1日にこだわることはなく、気温や天候によって臨機応変に対応します。


単衣を1枚選ぶなら…
 単衣を着るのは6月と9月のふた月だけ。そのせいもあってか、「なかなか単衣を誂えるきっかけがなくて」とおっしゃる人が少なくないようです。ですが、タイミングが短いからこそ、単衣をさらっと着こなす姿はとても美しいと思わされます。

 単衣は、反物としては袷となんら変わりません。簡単に言ってしまえば、袷で使われるのと同じ反物を、裏地を付けずに仕立てれば、単衣のでき上がり。ですが、一枚仕立てというだけで、とてもすっきりと涼やかに見えます。身体につかず離れず、さらさらとした爽やかさを感じさせる、これぞきものマジックではないでしょうか。

 基本的には袷と同じ反物と言いましたが、冬から夏へ、夏から冬へと季節が動く時期に着るものですから、色柄選びの際にはなおさら季節感を大切にしたいものです。6月に着る単衣ならば、少し夏を感じさせる色柄を意識しましょう。夏を表現しやすいのは寒色系。なかでもブルーを基本とした色みは、涼やかさを表してくれます。


イメージチェンジの更衣
 もちろん、9月に着る単衣と併用も“あり”ですが、その場合は柄に注意。夏めいたモチーフを用いたものでは9月に着づらいですし、逆に秋草などが入っていては6月に着づらい。小物選びで季節感を演出するように心がけてみましょう。涼やかな色の帯締、帯揚や、夏を感じさせる草花や流水などが描かれた帯を合わせるのも素敵です。

 左上の、袷から単衣の更衣例を見せてくれたのは、青木暁子さん。5月は袷の時期ですが、後半に入ったら、涼やかな色柄の帯や小物を合わせることで、夏の訪れを感じさせるコーディネイトに。季節に合わせて、自分のイメージも変えていく――。そんな楽しみも、きものならではです。

長沼静きもの学院

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