歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座厨房料理長特製、本格雑煮の作り方

 歌舞伎観劇の幕間でいただくお食事は、空腹を満たすだけでなく、お芝居の感想を話し合う大切な時間です。おいしいお食事なら話も弾み、その日の観劇の“記憶”はより楽しいものになるでしょう。つまり、歌舞伎観劇にとって“食”は満足感を与える大切な要素になるのです。そこでいただく料理のおいしさは、歌舞伎を五感で楽しむための大切な役割がある、ということでしょう。

 歌舞伎座のお食事どころのほとんどは、開幕前に予約をしておきます。そして昼の部なら12時30分頃に、夜の部ならば18時頃に食事ができる30分程の幕間があります。このときに歌舞伎座内のお食事どころへ行くと、テーブルには名前を記入した札が並び、お弁当が並んでいます。お吸い物も温かく、おいしいお弁当がいただけるという訳です。

 幕間の時間に合わせて、おいしさだけでなく、四季折々の食材を織り込み、時には演目にも目を配り、たくさんのお弁当を作る厨房は、戦争状態にあるのではと思いきや…。昼の部幕間の準備が始まっている厨房を覗いてみると、意外や意外、坦々と料理が作られていました。そして、2階食堂「ほうおう」でも同じように、ホールスタッフの皆さんは悠々と、そして整然と配膳していました!

 幕間まであと10分、5分…。「間に合うのかしら」と不安げに様子を見守っている私たちをよそに、刻々と時刻が迫っても、誰もあわただしい動きをすることなく、時間キッカリに配膳は完了。ホールスタッフのみなさんは身だしなみを整え、お客様をお迎えするために食堂入口に並んでいました。

 常に粛々と準備が進められているのは、その根底に綿密なタイムスケジュールがあってのこと。さらに、すき間と無駄のない動きは、長年の体内時計と勘によるものなのだ、と今回の取材を通して実感しました。

 歌舞伎座の“食”は、手作りにこだわっています。2階の歌舞伎茶屋で供されるくずきりも、粉から手作り。上質の葛粉(くずこ)2種をブレンドしたものを使用しています。

 歌舞伎座の名物スイーツ。あと数ヵ月で当分お目にかかれなくなるので、ぜひ今のうちに!


10時30分:仕込みと火入れを始める。
11時00分:注文が決まり、注文書を確認しながら分量通りのお弁当を並べはじめる。
11時30分:野菜の炊き合わせを人数分のお弁当箱に詰め始める。食材の味と彩りの組み合わせと美しさを考えながら、順番に盛り付ける。

12時00分:各食堂が動き出し、テーブルには花かご弁当などの容器が並べられる。厨房では、揚げ物を揚げ始める。

12時15分:栗と金時豆のおこわが炊きあがり。まさに秋の味わいを存分に楽しめるうれしいレシピ(取材したのは11月)。年配の方にも安心して食べていただけるように栗は柔らか目に炊く。
12時30分:花かご弁当など小鉢の盛り合わせのものは、厨房で器に入れ、テーブルで盛り合わせる。ホールの担当は、注文に合わせてお弁当を置いて行く。
12時45分:食堂のテーブルには、吸い物が並び、準備万端。名札の向きもすべて食堂の入口から見えるように配慮。ホール担当が入口に集まり、オープン。

歌舞伎座の「食」

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