歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



美味しい味の決め手は「だし」

 歌舞伎座のお食事どころは2階の「ほうおう」、地下の「花道」のほか「芝居茶屋」「カレーコーナー」「吉兆」などがありますが、歌舞伎座の厨房で作っているお弁当は、「ほうおう」「花道」、そして座席で食べることができる歌舞伎茶屋のお弁当、そして歌舞伎座の場外のお弁当販売店、日本橋高島屋などのお弁当です。

 この料理は、老若男女、全国から観劇にいらっしゃるみなさまにおいしいと思っていただかなければなりませんから、基準をどこにおくかが問題です。このおいしさの決め手となるのが、食材本来の力です。そしてそのおいしさを十二分に引き出すためには、「だし」が大きな存在となります。

 「だし」は煮出し汁の略で料理の素材に不足する旨みをほかの材料から抽出したものです。この旨みが加わることで複雑な旨みが生まれます。このだしの材料として、動物性のものでかつお節、小魚の煮干し、貝、えび、などの乾物があり、植物性のものは昆布、椎茸、かんぴょうなどがあります。これを単品、または組み合わせて使います。一般には植物性の材料には動物性のものを、反対に動物性の材料には植物性の材料を使うと言われています。

 歌舞伎座の厨房では、野菜の炊き合わせなど野菜を豊富に使っているものが多いので、かつおだしを使っています。

 歌舞伎座厨房料理長の紺野満さんは「1回180人分のだしをとるのに、2種類600gのかつお節を入れていますが、すべて一番だしだけで作っています」とキッパリ答えてくれました。料理の味の決め手となる「だし」は、しっかりとっておくことが旨みを引き出すことになるからです。

 厨房が静かになる頃、ふと片隅に目をやると、役目を終えた大量のかつおだしの出しガラがありました。


40リットルのずん胴鍋いっぱいで600gのかつお節を入れてとっただしは、まさに旨み充分。塩としょうゆ、酒などで味を仕上げる。写真は煮物用のだし。

11時30分を回ると一気に煮方さんが動き出す。仕上げの味付けや吸い物などが始まる。火を扱うこの場所は、取材陣の立ち入りは禁止。

しっかりと一番だしの旨みを含んだ炊き合わせは、見るからにおいしそう。濃い目のだしで煮込んだ煮物の味付けは薄め。しかしその味は絶品。

まさに絶妙なタイムスケジュールのもと、オープン直前に、注がれる吸い物。できるだけ温かい吸い物を提供したいという素晴らしいタイミング!

歌舞伎座の「食」

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