歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



地下食堂「花道」の奥にあるそばをいただくスペースの「かぶきそば」。
「かぶきそば」の暖簾をくぐると、そこは雰囲気のよい落ち着いた空間。

地下厨房で打ったそばをその日のうちに

そば粉は2対8の二八そば 。水でといたタマゴをつなぎに使い手早く混ぜる。そば粉をこねる最終段階になると、腰にぐっと力を入れてこね上げる。
 
歌舞伎座地下食堂「花道」で出されるそばは、全部瀬島さんが作ったもの。

 歌舞伎座の「食」をめぐるシリーズの第1回でもお話ししましたが、2006年9月までは、歌舞伎座の3階西の奥(現在は団体用の食堂)に「そば食堂」がありました。この「そば食堂」は、およそ半世紀もの間、多くの歌舞伎ファンに愛されてきました。「そば食堂」は現在のような予約制(※)ではなかったので、「幕間になると大急ぎで駆け込んで注文をした」という方もいらっしゃると思います。

 現在、歌舞伎座館内では、そばは地下食堂「花道」の奥にある「かぶきそば」の暖簾(のれん)が下がったスペース(上写真)でいただくようになっています。1回の幕間に限定40食、席には予約の名札が立っていて、以前の「そば食堂」とは趣が異なる静かな空間。芝居絵なども飾られています。

 ここで出されるそばを作っているのがそば職人の瀬島敏夫さんです。瀬島さんの仕事場は、「かぶきそば」のある地下食堂「花道」に隣接した厨房の一角。瀬島さんが歌舞伎座でそばを作り始めたのは30数年前、3階の「そば食堂」の時からです。

 「そばは早くから配膳しておくことはできません。とはいえ、少しでもお待たせしないで出したいですし…」。 瀬島さんは、観劇の合間という特殊な場面で、常に「できたてをおいしく、そして気持ちよく召し上がってほしい」と願ってそばを作り続けています。

 特殊なのは“お客様にそばを出す場面”だけではありません。『直侍』で直次郎を演じる俳優さんが食べるそばは瀬島さんが作ります。楽屋にいる俳優さんから注文を受けることもあります。瀬島さんの身近には常に歌舞伎が、俳優さんがいるのです。そんな瀬島さんに、俳優さんとの思い出を尋ねると、
「今、先代の勘三郎さんのことをしみじみと懐かしく思い出していました。よく花巻そばやざるそばを注文してくださって…。そして当代も今月注文してくださったんですよ。もう、とても感激しています」。 「歌舞伎座さよなら公演 二月大歌舞伎」は十七代目中村勘三郎二十三回忌追善興行。現歌舞伎座での公演もいよいよ残り少なくなってきた今、俳優さんに、お客様に、さまざまな思いを込めて、瀬島さんは今日もそばを作ります。

※そばの予約は、観劇日当日に場内の食事予約所ならびに食堂で、開演前まで受け付けています。電話での予約は受け付けていないので予めご了承ください。

 
だしは宗田がつおとさば節からとれた一番だしのみ。
“かえし(つゆのもと)”は毎日気を配り、減ったら継ぎ足して、こだわりの味を守る。 かえしは、醤油に砂糖、みりんを加え、味を熟成させるため、しばらく寝かせて作る。
女性やお年寄りが多いという客層に配慮して、温かいそばのつゆは、薄口醤油を使い、関東にしては薄めの色でまろやかな味に仕上げている。

歌舞伎座の「食」

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