歌舞伎いろは

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直球勝負の洒落が効いた「負け惜しみ」

 『義経千本桜」』の「渡海屋」の場で、義経主従の追っ手方ふたりが、銀平(平知盛)に手もなくやられ、情けなく引き下がる時の洒落を効かせた台詞の一節??

 「鰯(いわし)ておけば飯蛸(いいだこ)思い、鮫(さめ)ざめの鮟鱇(あんこう)雑言。いなだ鰤(ぶり)だと穴子(あなご)って、よくい鯛(たい)目刺(めざし)に鮑(あわび)たな」(⇒言わしておけばいいだろと思い、様々の悪口雑言。田舎武士だとあなどって、よくも痛い目にあわせたな)
 「鯖(さば)浅利(あさり)ながら、鱈(たら)海鼠腸(このわた)に帰るというはに鯨(くじら)しい。せめてものはら伊勢海老(いせえび)に、このひと太刀魚(たちうお)をかまして槍烏賊(やりいか)」(⇒さはさりながら、ただこのままに帰るというは憎たらしい。せめてもの腹いせに、このひと太刀をかましてやろうか)

 『義経千本桜』は、『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』と並ぶ、義太夫狂言三大名作の一つ。初演は人形浄瑠璃で延亨4年(1747)11月に大坂・竹本座。歌舞伎にしたてたのは翌年正月伊勢の芝居。あの渡海屋の「魚づくし」の台詞の場面が加わった時期は明らかではありませんが、人形浄瑠璃にはない歌舞伎だけのオリジナル。壮大な歴史ロマン、しかも人間の悲哀をテーマにしたシリアスな劇中に、こんな洒落の効いたシーンを盛り込んだ江戸の人達の諧謔センスに、思わずに拍手を送りたくなります。同時に、ここで登場する魚の多くが、江戸湾や近海でも獲れたと聞けば、かつての海の豊かさに驚かされます。

渡海屋銀平
cThe TsubouchiMemorialMuseum,WasedaUniversity, All Rights Reserved.

流行役者水滸伝百八人之一個「新中納言平知盛坂東簑助」
cThe TsubouchiMemorialMuseum,WasedaUniversity, All Rights Reserved.


歌舞伎「食」のおはなし

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