歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



透明感があり、絹のようにしなやかな 稲庭絹女うどん

 羽後の国(秋田県)一帯を収めていた佐竹藩の献上品として作り始められた稲庭うどん。製法が素麺と似ていることから、三輪素麺の技術が北前船に乗って東北地方へたどり着いた、白石温麺の技術が伝わった、佐竹のお殿様がお国替えで秋田入りした際に技術が持ち込まれた…と諸説が伝わります。いずれにしても、その起源は特権階級の食べ物。素材も製法も、当時の最上級の極みを尽くしたものだったことでしょう。

 300年以上前から伝わる製法をそのままに、現在も手作業で稲庭うどんを作るところの多い稲庭地区で、とりわけ繊細な稲庭うどんを作っているのが、高橋東一さんです。製麺職人としてのキャリア約40年の高橋さんが一筋に目指してきたのは、透明感があり絹のようにつるりとしてしなやか、かつコシが強く快い喉ごしが楽しめる稲庭うどん。理想の麺に近づくために、あらゆる種類の小麦粉を取り寄せ、自身の手でこね、改良を重ねていったといいます。

 寒い時期は手に痛みが走るほどの冷水に耐えながら早朝に生地を仕込み、ねかせては延ばし、延ばしてはねかせる作業を経て、乾燥させて製品に仕上げるまで、すべてが職人の手で行われる高橋さんの稲庭うどん。麺作りに人生の半分以上を費やしてきた情熱の集大成です。

 秋田県湯沢市

まさに絹をまとったような稲庭うどんです

生産者の高橋さん

生産者の高橋さんからのメッセージ
一日とて同じ麺は作れないし、今日満足したからといって明日もまた今日以上に納得のいく麺が作れるとは限りません。ただ、努力すればするほど麺はきちんと応えてくれるということだけは自信を持って言えます。

丹念に麺を延ばす職人の高橋東一さん

左/力を込めて小麦と塩水をあわせこねていきます。仕込み水は栗駒山系の地下水。 右/熟成させた麺を一定の太さに切り分けます。包丁を入れるのは、後にも先にもこの一回だけ。

左/麺にひねりを加えながら2本の棒に素早くかける「綾掛け」と呼ばれる作業に熟練の技が光ります。 右/乾燥室に整然と並び完成を待つ高橋さんの稲庭うどん。


歌舞伎「食」のおはなし

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