歌舞伎いろは

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酵母がそのまま生きている「濁り醤(にごりびしお)」はじっくりしみ出た旨みだけを集めた生の醤油

 醤油発祥の地、湯浅で天保12年より蔵をかまえ、150年以上にわたり醤油を造り続けている「角長(かどちょう)」。その蔵の天井や柱は、びっしりと酵母に覆われています。これこそが、美味しい醤油のために必要な酵母「蔵つき酵母」。ほかでは真似ることができない、まろやかな味わいの源です。この長い歴史を経た蔵で、岡山県産の大豆と国産の小麦を使って創業以来使いつづけている吉野杉の大樽に仕込まれるのが「角長」の醤油です。

 「角長」の五代目当主、加納長兵衛さんが丹誠を込めて生み出したのが「濁り醤」。通常の醤油造りでは、樽の中で一定期間熟成させたもろみは圧搾したのちに加熱処理をします。ですが長兵衛さんの「濁り醤」は、圧搾も加熱もしません。酵母がそのまま生きた醤油なのです。

 その年の一番出来のよい杉樽を選んで、一年余りじっくりと天然醸造を行ったもろみにきめの細かい特注の笊(ざる)を沈め、笊のなかに染み出る醤油をすくい取る…。それは日本で醤油が生まれたときと同じ“旨みの汁”。機械は一切使わず、鎌倉、室町時代の手づくりを再現した原点の醤油です。酵母の影響で通常の醤油に比べ少し濁った色になることから「濁り醤」。「もろみ」そのものの旨味が、白身魚や焼き魚など、醤油の風味を生かした料理に好相性です。

和歌山県湯浅町、加納長兵衞さん


左/天井や梁をうめつくす蔵つき酵母は、醤油本来の味にこだわり続ける角長の宝。右/創業時から使い続けている吉野杉の大樽。今や修理できる職人はいないのだそう。

左/たまり醤油の火入れには、今でも薪を使用。
右/左から六代目誠さん、長兵衛さん、七代目恒儀さん



歌舞伎「食」のおはなし

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