歌舞伎いろは

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最初は表面の砂糖衣のシャリシャリ感、次に口中に広がる自家製餡(あん)の優しい甘みが後を引く美味しさ

 小城羊羹は、表面がシャリッとした独特の食感で有名な、佐賀の銘菓。現在では、わずかに29軒のみという、小城羊羹を作ることができる和菓子舗の中の1軒が、昭和23年創業の丸城屋です。

 店を切り盛りするのは、2代目の中原国男さんと3代目の菊池滋子さん父娘。中原家の三女で、すでにミセスでもあった滋子さんが、大の男でも音を上げる厳しい和菓子職人の道を志したのは、ひとえに父が作る羊羹の味を途絶えさせたくないという思いからです。だから、今では丸城屋の工房を取り仕切るまでになった滋子さんがつくる小城羊羹は、父であり師匠でもある中原さんが守り続けた製法そのまま。毎朝ぐつぐつと湯気を上げる釜で炊きあげた自家製餡を、木べらを使って自分の手のひらが覚えた感触で心を込めて練り上げます。職人の腕が試される、この「練り切り」の作業でできたほどよい甘みと粘度を含んだ生地を成型して、乾燥庫で室温に晒(さら)せば、端正な小城羊羹のできあがりです。

 羊羹作りのほとんどを滋子さんに譲った中原さんが担当するのは、羊羹の切り分け。このとき切れ端を必ず口にして、しっかりと「シャリ」(表面のかりっとした衣)がでているか、豆のこくが氷砂糖に溶け込んでいるかを確かめるのだそう。厳しい先輩職人が合格の太鼓判を押した物だけが、丸城屋の小城羊羹として世の中に送り出されるのです。

佐賀県鹿島市「丸城屋」中原国男さん、菊池滋子さん

左/数種類の豆を合わせることでコクが生まれます。
右/品質の良し悪しを左右する「練り切り」作業は、工房の空気が張りつめる瞬間

左/今では珍しい漆塗りの流し型は、丸城屋の歴史そのもの
右/その日のデキを確かめながら、正確に計り包丁を入れます


歌舞伎「食」のおはなし

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