歌舞伎いろは

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左から白酒売新兵衛、助六、髭の意休 五湖亭貞景画

左から白酒売新兵衛、助六、髭の意休 五湖亭貞景画 早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁
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女衆を魅了したほんのり甘い酒

 太郎冠者と両手を棒に縛られた次郎冠者が、酒を飲みたい一心で協力し合い、主の留守中に酒を盗み飲む仕草が笑を誘う舞踊『棒しばり』や、弁慶の酔態に男の愛嬌が漂う『勧進帳』。歌舞伎には、観客にまでほろ酔いの心地よさが伝わってくる楽しい場面が数々あります。また、酒にまつわる江戸の風俗が登場することも度々。例えば「白酒売」もその一つです。

 ご存じ歌舞伎十八番の1つ、『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』。花の吉原の人気者、助六は、実は曾我五郎時致(そがのごろうときむね)です。源氏の宝刀、友切丸(ともきりまる)を探し出すため、吉原で豪遊する意休や子分のくわんぺら門兵衛らに喧嘩をふっかけ、刀を抜かせようと……。

 さて、そんな助六の喧嘩沙汰を心配して現れるのが、白酒売の新兵衛(実は兄の曾我十郎祐成)。助六が喧嘩を仕掛ける真意を知り、一緒に喧嘩しようと言い出します。「それじゃあ喧嘩の仕方を教えましょう」と助六。さっそく通人(つうじん)を相手に「股ぁ、くぐれ」と強要して喧嘩を売る兄弟。そこで通人が時事的な話題や流行語などを織りまぜたセリフを言って兄弟の股をくぐる。現代では「お約束」となった演出で大いに笑いを誘うシーンです。

 助六をはじめ歌舞伎に度々登場する白酒売は、江戸の春の風物詩。雛祭りが近づくと、「山川白酒」と記した桶を天秤棒でかついで、甘くて口当たりのいい白酒を売り歩きました。吉原の花魁にも町屋の女衆にもひっぱりだこの白酒売。桶に乗せた箱には、ガラスの徳利が入っていたというのも洒落ていて、女性をターゲットにしたあたり、なんだか現代的な発想の商いです。

 この白酒は、みりんに、蒸してすりつぶした餅米と焼酎を混ぜた白く濁ったもの。ちなみに元禄期には、「諸白」と呼ばれる、現代の清酒に近い、透明の酒が一般に流通していました。そして、その約8割が神戸や灘など上方から運ばれる「下り酒」だったといいます。

歌舞伎「食」のおはなし

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