歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



左から白酒売新兵衛、助六、髭の意休 五湖亭貞景画

『新版歌祭文 野崎村』より油屋おそめ、野崎の久作、油市久松 五渡亭国貞画 早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁
cThe TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved.
中央が久作。右手に持っているのが、歳暮の挨拶に持って行く藁菰(わらこも)でくるんだ自然薯(じねんじょ)。左手の梅の枝は、久作が「今年はとりわけ早めに咲いた。歳暮に添えて持っていこう」と言って折ったもの(※)

手折った花を贈った? その名も華麗な「花道」

 歌舞伎舞台の下手、客席を貫くように伸びる「花道」。演目に応じて廊下や道、川などに見立てられ、ここから俳優が出たり引っ込んだりする場面は、客席との近さも相まって大いに迫力を感じさせます。

 あでやかに着飾った役者が登場するのに、いかにもふさわしい「花道」の名。その美しい名称の由来は、江戸時代のはじめ、客席からご贔屓(ひいき)の役者に贈る「ご祝儀(ハナ)を置く道」として誕生したからとも、観客が贈り物に季節の「花」を折り添えて贈ったからともいわれています。

 襲名披露では、役者からご贔屓や裏方さん、舞台関係者に、晴れの日の感謝の気持ちを込めて記念の品を配ります。ポピュラーなのが家紋や名前の入った手ぬぐいでしょう。

 では、歌舞伎の演目に「贈り物」が登場する場面を探してみると……。『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん)野崎村』に、「父(とと)さんは油屋へ歳暮の礼にいかしゃんした」と、お光のセリフの中に「歳暮」の言葉を見つけることができます。お光の父久作はお百姓で、養子である久松の奉公先の油屋へ藁菰(わらこも)に包んだ自然薯(じねんじょ)を手に、歳暮の挨拶に出かけます。自然薯とはヤマイモのこと。なかなかの珍重品で、久作も「山の芋は鰻になる、滋養になる」と言っている、お百姓らしい心のこもった贈り物です(※)。

※この場面は、近年、歌舞伎ではあまり上演されず、久松と祝言を挙げられるとウキウキしている久作の娘お光、そのお光のもとに久松を追ってお染がやってくる場面から始まることが多いようです。

歌舞伎「食」のおはなし

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