歌舞伎いろは

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将軍だって、届けばうれしい「歳暮祝い」

 日本では古来、先祖の霊が盆と正月に帰ってくると考えられていました。そのため、霊を迎えるお供え物を本家に持ち寄ったのが、お歳暮の起源といわれています。これが贈答として習慣化されたのは、江戸時代。武士は組合の組頭に、また商人は年末の決算を終えて得意先にお礼の意味を込めて、品物を贈ったのが始まりです。やがてその習慣は庶民にも広まりました。

 一年の締めくくりに、日ごろの感謝と親愛の気持ちを込めて「歳暮祝い」と呼び、品物を贈った江戸の武家や庶民。一方、全国の諸大名も将軍家へ、各地の名産品を送りました。信州から蕎麦、群馬からこんにゃくやネギ、九州から砂糖、北海道からは塩鮭……。食べ物だけでなく塗り物や陶器などの工芸品もあったようです。その時期の江戸城内では、全国名産品展もかくや、といった光景が見られたのかもしれません。

 歳暮を贈られた側の将軍は、権力を嵩(かさ)にもらいっぱなしだったかと言えば、さにあらず。ちゃんと礼状を返していました。将軍からのお礼を綴った「御内書(歳暮祝儀献上への返礼)が、各地に残っていることでも判ります。元来お歳暮は、世話になった人に贈るものですから、お返しは贈りません。その代わりに必ず礼状を送るのは、昔も今も変わらないマナーのようです。

将軍へは、各地の山海の幸、工芸品などの名産品が届けられた


歌舞伎「食」のおはなし

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