歌舞伎いろは

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『都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ) 』より三代目歌川豊国画。

『都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ) 』より三代目歌川豊国画。早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁
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日本人とは、切っても切れない深い仲

 お正月、ごちそう三昧の三が日が過ぎると白いご飯が食べたくなりませんか。遠足で食べたお弁当のおにぎりの美味しさが、誰もの記憶の中に刻まれていたり、病気の時には温かなお粥の一口一口が、ぐんぐんエネルギーを充填してくれるのを実感したり。わたしたちにとってご飯は、深い縁で結ばれたパートナーです。

 奥州仙台伊達藩のお家騒動を題材にした『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』、「御殿(ごてん)」の場に、茶道具の茶釜でご飯を炊く場面があります。通称「飯炊き(ままたき)」がそれ。幼なくして当主となった鶴千代を暗殺の魔の手から守るため、乳母の政岡は鶴千代君の食事をすべて自炊しています。鶴千代君とそのお付きである千松(政岡の子)は、政岡の苦労を知っているから、お腹が減ってもじっと我慢。やがて炊きあがったご飯で作ったおにぎりを頬張る2人の姿の不憫(ふびん)さ、いじらしさに、「よかったね。安心してゆっくりお食べ」と思わずにはいられないこの場面、最近の上演では省略されることが多いようなのでご覧になったことがある方は少ないかもしれません。

 一方、『都鳥廓白浪(みやこどりながれのしらなみ)』の大詰では、ご飯を食べながらの立ち回り、「おまんまの立ち回り」が見所のひとつとなっています。ご飯茶碗を手に悠々と食事をしながら捕り方をあしらう盗賊、霧太郎(松若丸)、戦いながら給仕する手下の蜂蔵。捕り方は、ネバネバとのびる納豆に絡め取られたり、踏みつけられタクアンをくわえさせられたり……(※)。深刻な物語ながら、締めくくりのこのショータイム(!?)があるがゆえに、観た後に爽快感が残るこの演目。ご飯は名脇役として最後の見せ場を支えています。

※演出は上演時によって若干異なる場合があります。

歌舞伎「食」のおはなし

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