歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



『助六』の登場人物が描かれた錦絵

『助六』の登場人物が描かれた錦絵。
ういろう売、髭の意休、三浦屋揚巻、花川戸助六、しら玉、大ぜん、白酒売新兵衛、閑寺門兵衛、朝顔仙平(一番左手前)。
三代目歌川豊国画。
早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁cThe TsubouchiMemorial Museum, WasedaUniversity, All Rights Reserved.

歌舞伎の舞台はトレンド煎餅の発信地!?

 煎餅(せんべい)は江戸260余年の歴史の中で誕生した町民文化の一つ。小麦粉と砂糖を練って、落花生やゴマを加えたり味噌味にしたり、溶かした砂糖で絵柄を描いたり。米粉を原料にした芳ばしい醤油味の煎餅も、この時代に誕生しました。パリッとした歯ごたえは、まさに江戸っ子好み。歌舞伎との縁も深いものがあります。

 『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』通称『助六』の敵役と言えばご存じ、髭の意休。その子分の一人が、朝顔仙平(あさがおせんぺい)です。「白塗りの顔に紅と青黛(せいたい)で朝顔に隈取り、眉毛は蕾(つぼみ)、髭は葉に描く」と、派手でユーモアたっぷりの拵え(こしらえ)に、「ん、あさがおせんべい…?」。そう、当時人気の朝顔煎餅をもじった名前。それが「せんべい尽くし」のセリフで観客を沸かせます。「事もおろかやこの糸びんは砂糖煎餅が孫、羽衣せんべえはおれが姉様、双六(すごろく)せんべえとは行逢(ゆきあ)い兄弟、姿見煎餅はおらがいとこ、竹村の堅巻せんべえが親分に、朝顔仙平という色奴(いろやっこ)様だ」。

 セリフに登場するのは、いずれも実際に江戸で売られていた煎餅です。流行の発信地だった歌舞伎の舞台に宣伝の場を借りて、煎餅人気はいっそう高まったことでしょう。江戸へ商用や観光で訪れた各地の人たちが、歌舞伎を見物、そして日持ちもする煎餅を江戸土産に…。そんな光景も浮かびます。

 また、江戸後期の風俗見聞集「続飛鳥川(19世紀中頃刊)」には、「團十郎煎餅」が盛んに売られていたと記されているように、歌舞伎役者の名前を冠したり、似顔絵を描いた商品も多くありました。

朝顔仙平の衣裳
みごとな朝顔が描かれている朝顔仙平の衣裳。

歌舞伎「食」のおはなし

バックナンバー