歌舞伎いろは

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江戸時代の主流は、小麦粉を練った甘い煎餅

 残念ながら朝顔煎餅の作り方などは、資料が残されていません。江戸後期の辞書『俚言集覧』(りげんしゅうらん)にある「あさがほせんべい、上開、下窄(したすぼみ)、牽牛花(あさがほ)の形に似たる煎餅をいう」の記述をたよりに、その形状だけはおぼろに想像できます。

 煎餅は、米と塩、醤油を使ったものと小麦粉を原料とした甘味煎餅とに大別されます。江戸中期の「和漢三才図絵」では、煎餅の材料に小麦粉と糖蜜などを挙げていることから、江戸時代は、甘味煎餅が主流だった様子。朝顔煎餅も、ぱりんと硬くてほんのり甘い煎餅だったのかもしれません。

 ところで、割ると中から「今日の運勢」などが出てくるフォーチュンクッキー。中華料理店でよく見かける、アレが実は日本生まれなのはご存じですか? ルーツは、北陸地方の神社で中におみくじを入れて新年のお祝いに配った「辻占煎餅」です。きっかけは1894年、サンフランシスコのゴールデン・ゲート・パークで開催された国際見本市。日本人の庭師が出展した日本庭園で、辻占煎餅をお茶請けに出したのが広まりました。中国ではフォーチュンクッキーの存在さえ、ほとんど知られていないとか。道理で北京や上海などのレストランで見かけることがないはずです。

 醤油味の煎餅は、醤油が一般的に広まる正保年代(1600年代ころ)に誕生。良質な武州米(埼玉県の産地米)と利根川沿岸の醤油(野田醤油が有名)に恵まれた江戸で洗練されていきました。パリッとした食感と醤油の芳ばしい風味は、いかにも江戸っ子が好みそう。噛めば噛むほど米と醤油の香が口の中に広がる堅焼きなどは、しっかりあごを動かすことで健康効果もあり、現代の子供たちにも食べさせたいおやつです。


「おみくじクッキー」とも呼ばれるフォーチューンクッキー

歌舞伎「食」のおはなし

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