歌舞伎いろは
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享保11年(1726年)に江戸に入荷された木炭は約80万俵でしたが、幕末には230万俵に膨れ上がります。
火鉢は遠赤外線効果があり、囲炉裏とはまた違う温かさがありました。

其の二 火鉢の周りで

 冬の風情が粋とはいっても、やはり暖房は必要です。歌舞伎の舞台にもしばしば登場する火鉢は代表的な冬の暖房器具で、奈良時代に使われるようになったものです。平安時代に書かれた『枕草子』の「春はあけぼの」の段で、早朝に火鉢の炭火とそれを運ぶ人々の姿を冬の興趣としていることは有名です。

 火鉢は木炭を使用するので囲炉裏(いろり)のように煙が上ることがなく、家の中に置くには便利な道具です。しかも安定した火力を長く保てるという利点もあります。清少納言が描写した火鉢は「火桶」という木製の火鉢ですが、江戸期には木を使った箱火鉢、長火鉢、くりぬき火鉢などのほかに、金属製の金火鉢や焼き物の瀬戸火鉢など、調度品としても楽しめるスタイルが好まれるようになりました。炭を扱うための火箸、鉄瓶を置いて湯を沸かす五徳、そして煙管(きせる)をくゆらせる者なら煙草盆などのアイテムと共に、人々は火鉢の周りの時間を過ごしていたのです。

くらしの今と昔

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