歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


竈(かまど)は火を使うため、夏のご飯の準備は大変な作業でした。米を炊くのは朝の1回だけで、暖かいご飯は朝食だけでした。
藁苞(わらづと)から出した納豆を刻んだものに豆腐や菜っ葉類を入れたものをたたき納豆といい、お湯をかけると納豆汁になります。これも人気のある朝食メニューでした。

其の一 朝が早く、1日が長い夏

 夜明けと共に起き、日暮れと共に寝るのが江戸の人々のライフスタイルです。彼らが時の数え方に用いた不定時法は、日の出から日没までを基準として1日を12刻に分ける方法ですから、夏は昼の1刻が長くなる季節でもありました。

 他の季節と同じく長い夏の1日も、江戸の長屋はまず朝食の支度の音でにぎやかになります。米を炊くのは朝の1回だけ、つまり家で温かいご飯をいただくのは朝食のみです。現代人にしてみれば少し寂しい気もしますが、煙を上げ熱を放出する竈(かまど)のそばで火の面倒を見るのは、夏場はとくに大変な作業です。日の高くなる前に炊飯をすませるのは、賢明なことだったといえるでしょう。

 朝食によく登場するのは、納豆や豆腐です。買いに出かけても良いのですが、路地には朝早くから納豆売りたちが呼び声を上げてやってきます。豆腐屋も天秤棒を担いで売りに来ます。物売りが来るのは都会ならではの便利さですが、冷蔵庫はありませんから長屋の奥さんたちは毎日1日分ずつ食材や惣菜を買っていました。炊きたての米飯に、味噌汁や納豆汁、そして自家製の糠漬けを添えれば朝ご飯の支度は完了です。

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