歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


江戸の庶民の灯は、行灯、提灯、ろうそくといったものが中心でしたが、こんなわずかな灯でも、江戸の人たちにとっては、なくてはならないものだったのです。

其の三 夜を照らす光の世界

 吉原といえば「不夜城」としても有名です。宝井其角が「闇の夜は吉原ばかり月夜かな」と詠んだように、日が暮れればいずこも闇に包まれる時代において、吉原だけは闇を追い出すことのできる特別な場所でした。

 外の世界との境界線である大門をくぐれば、辻行灯や提灯などの光が惜しみなく町を照らし出しています。またどの通りにも「たそや行灯」が並びます。

 遊女達の部屋では、燭台やぼんぼりの上でろうそくが煌々と灯っています。行灯に比べると格段に明るく、またとても高価な明かりですから、それだけでも庶民には考えられない贅沢な光景です。さまざまなスタイルの行灯も活躍しているので、これを世話をする「油さし」の男が各部屋をめぐります。彼らは、夜中に油や芯を調整していきます。何も異変がないか確かめる「不寝(ねず)の番」の役割を兼ねることもあります。

 吉原には、江戸市中では考えられないほどの数多くの焔がゆらめき、独自の世界を創り出すのに一役買っていたのです。
歌舞伎の「花魁」
 実際の事件を元にした『籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいさめ)』では、土産話にと吉原を訪れた佐野次郎左衛門が、桜を凌ぐ美しさの花魁・八ツ橋に心を奪われることで悲劇が始まります。吉原の桜は毎年3月の間だけわざわざ植える春の名物で、夜桜も楽しめました。ただし、この習慣が始まったのは現実の事件よりも後のことです。

くらしの今と昔

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