歌舞伎いろは
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楓は、葉がまるでカエルの手のようだということから「蛙手」と呼ばれ、やがて「かえで」になったといわれています。紅葉の代名詞でもあった楓には、いろいろな種類があり、秋には見事な景色を生んでいました。
白膠木(ぬるで)はウルシ科ですが、ヤマウルシのようにかぶれることはありません。樹皮に傷をつけた時に出る白い液体は塗料に使われるものであり、そこからヌルデという名前が生まれたそうです。紅葉すると、すっかり印象が変わります。

其の一 自然が色づく世界へ

 現代の私たちと同じく、江戸の人々も色彩豊かな秋景色を求めて足を伸ばします。紅葉見物は観楓(かんぷう)とも呼ばれますが、江戸でも紅葉といえばまずは楓です。また、楓よりも早く色づく白膠木(ぬるで)も人気がありました。

 男も女も楽しみにしていますが、なかでも風流人は時間も金も惜しまず紅葉狩りに出かけます。ときには朝もまだ暗いうちから出発することになります。そうやってようやくたどりついた名所で、秋色に染まった草木を眺め、色とりどりの葉がはらはらと舞うさまを楽しむのです。

 江戸には紅葉の名所がいくつもあってどこもにぎわいましたが、その多くが神社仏閣でした。たとえば、江戸からは離れた千葉県市川市の真間山の弘法寺(ぐほうじ)は有名で、俳人の小林一茶もこの寺の紅葉を詠んでいます。江戸市中近辺で人気があったのは、下谷の正燈寺や南品川の海晏寺(かいあんじ)です。とくに海晏寺は、青く澄んだ海を背景に見事な紅葉を味わえました。飛鳥山もまた楓の名所で、麓の金剛寺は別名「紅葉寺」です。飛鳥山の桜と楓は、八代将軍吉宗が庶民の行楽を慮って何千本も植樹させたもので、現代の私たちの目も楽しませてくれています。

くらしの今と昔

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