歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


1年の総決算となる年末をにらみつつ、火鉢を使う時期から商人たちは夜業に励みます。成功した商家ほど、日々きちんと帳簿合わせをしていました。写真は大福帳。江戸時代の商家で使われていた金銭出納帳で、現代の簿記のように勘定項目を分けず、取り引き順に書き連ねました。
江戸は女子の稽古事が大変盛んで、時代が進むうちに女中までも浄瑠璃や三味線を習うようになりました。なお、琴だけは免許制です。3段階に分かれていて、初許し、中許し、奥許しとステップアップしました。

其の二 長夜に心を研ぎ澄ます

 この季節の天気は爽快ですが昼が短く、斜陽に輝く紅葉を楽しんでいるうちに、すぐに長い夜が訪れます。商人たちは、たっぷりとある夜の時間を仕事の整理にあてます。仕入れのバランスを見たり、下請け職人の仕事の進行状況をチェックしたり、昼間できない仕事はたくさんありました。少しずつ年末が近づくにつれ、彼らは寒い夜も仕事に励むようになるのです。

 商家の娘たちもまた、長夜に忙しくしています。こちらは、三味線や琴などの練習です。江戸が豊かになるにつれて、庶民の娘もさまざまな習い事に励むようになりました。将来、行儀見習いとして武家に奉公したければ、何か芸事をマスターしておきたいもの。ですから、女子は7、8歳にもなれば何らかの師匠のところに通いはじめるのです。武家奉公は将来の良縁につながりますから、親はかなり真剣で、金も惜しみませんでした。

 だからといって、夜の通りまでおおっぴらに鳴り物を響かせるわけにはいきません。そこで、たくさんの娘達が、寒い夜の土蔵を練習スタジオにしていました。夜の大通りは静まり返っているようでも、裏に回って耳を澄ませば、きっとあちこちからいろいろな音色が聞こえたのでしょう。

くらしの今と昔

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