歌舞伎いろは
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元日の明け方に恵方を向いて汲む井戸水を若水といいます。雑煮も福茶もこれでまかないます。福茶の由来は空也上人にさかのぼるといわれ、江戸では甲州梅、大豆、山椒を煮出しました。正月にこれを飲むと、1年を健康に過ごせるのです。
恵む方角、恵方にはその年の歳徳神が入ります。歳徳神はその名のとおり、1年の福をもたらす方位神で、美しい女性の姿をしていると考えられていました。恵方参りは厄年の人が特に熱心で、その良い方角に入る神社を選んで参拝します。

其の一 湯屋で身ぎれいにして新年へ

 元日は江戸の人々はほとんど寝ずに遊び、夜明けを迎えます。週末も日曜日もない江戸では、盆と正月だけがオフィシャルな休日です。誰もが堂々と休める、とても特別な時ですから、仕事をせずに過ごすという贅沢を存分に味わいます。

 ただし、湯屋は大忙しで、大晦日も夜どおし風呂を炊き、客を迎えます。夜明け前に客が絶えたところでやっと湯を替え、そしてまたすぐに営業開始です。江戸では毎日風呂に入ることが当たり前で、湯屋は毎日の生活に欠かせませんが、通常の営業は夜明けから暮れ五つ、つまり日没の2時間後あたりまで。深夜営業は年越しスペシャルです。なお、正月の三が日は、めでたい初風呂ですから、湯屋から客へ福茶がふるまわれます。客のほうは湯銭を白紙に包み、おひねりとして渡したそうです。これが目立つところに置かれた三方(さんぼう)に積み上げられ、新年のめでたさも増していきます。

 現代では元日といえば初詣でで、道路が混雑したり、神社に行列ができたりします。江戸ではもっとのんびりしていて、松の内までに氏神様にお参りする程度。むしろ、厄除けとしての恵方参りや、縁起の良い七福神めぐりに人気がありました。

くらしの今と昔

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