歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


雑煮はもともと保臓(ほうぞう)と呼ばれていました。五臓を保養するという意味です。ゆっくり休める年のはじめに身体を慈しみ、1年の健康を保つという、とてもヘルシーな食事です。江戸でもすまし汁ではなく味噌汁にしたり、大根、里芋、鶏肉あるいは蒲鉾を添えたりすることもありましたが、基本は質素な小松菜雑煮でした。
元旦の「旦」の字は、水平線から昇る太陽を表します。江戸の人々にとって、元旦と初日の出は切り離せないものでした。名所と言われるところは海の見える高台で風も強い場所。江戸のころの正月は、現代では立春の直前にあたりますが、やはり夜明け前は寒いものです。それでも陽が上がれば神々しく、ありがたいものでした。

其の二 朝から福を浴びる

 元日の江戸では夜明かしで眠くても、初日の出を拝みます。家の屋根で見ても良いのですが、たくさんの人が見晴らしの良いところまで出かけました。洲崎、高輪、芝浦など、海をよく見渡せる場所が、有名なベストスポットです。派手なおしゃれをすることはありませんが、新しい年を迎えるために男女とも身ぎれいにして出かけます。

 静かな海から太陽が昇り、明るい光を浴びるとすがすがしい気持ちになり、古き日々が去り、新しい年がやってきたことを実感できます。江戸の平和な世に感謝しながら、全身で今年の福を一気に受け止めることのできる、ありがたい瞬間だったようです。

 めでたい正月は、食べる物もめでたいものをいただきます。雑煮は1年の健康を願い、貧富にかかわらず誰もが食べる、正月メニュー。ただし、地方によっていろいろな雑煮があるなか、江戸ではだし汁に醤油で味付けし、切餅と小松菜を加える程度のシンプルスタイルでした。鯛を添えることもない質素な雑煮は、家康が貧しいころを忘れないようにと自ら食すようになり、江戸中がならったものだそうです。

くらしの今と昔

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