歌舞伎いろは
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其の二 オシャレの行き過ぎで遠島に!?

 さて、一番のオシャレの座を京でも制した石川六兵衛の妻は、さらに贅を極めていきます。しかし、その過分な行動がついに徳川綱吉の怒りに触れ…。

 五代将軍徳川綱吉と石川六兵衛の妻とのエピソードが江戸時代に書かれた書物『御当代記』に記されています。

 花見の時期、上野へ社参する将軍綱吉一行の長い行列が、江戸のとある小路にさしかかった際、高価な伽羅(きゃら)の香の強い匂いが漂ってきました。この強い匂いは何事かと香りの元をたどると、並んだ町屋の一軒から出てきます。そこには、金の屏風を立て、美しく着飾らせた8人の腰元を従えた石川六兵衛の妻。きらびやかな着物を着て金屏風の前に座り、侍女に伽羅を焚かせて、その煙を金の扇子で綱吉の駕籠に浴びせかけていたのでした。

 この町人の豪奢ぶりは綱吉の怒りに触れ、石川六兵衛夫妻は家財を没収され、江戸を追放されて遠島の憂き目に遭いました。将軍の上野参詣と言えば、将軍家の墓所である東叡山寛永寺への墓参を意味します。庶民の入山が認められていない「別格の寺」への厳かな参詣にそぐわない行動を起こしてしまうのは、奢侈に奢った結果でしょう。何事も行き過ぎにはご用心、ですね。

香を焚く侍女

くらしの今と昔

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