歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


其の二 狭くとも楽しい長屋のくらし

 では、庶民の台所はどのようになっていたのでしょうか。その前に…、江戸は100万都市と言われた街。当時の都市構造は武家を中心としていたため、専有面積は武家が69%、寺社が15%、町人が16%。その狭い地域(約270万坪)に人口の実に半数が住むための知恵が、「長屋」です。中でも、表通りに面しているのが「表長屋」、路地の奥にあるのが「裏長屋」。表長屋に住めるのは高収入の職人頭などで、庶民の多くは裏長屋に住んでいました。一般的な長屋は、約6畳の広さに部屋と土間と台所があり、家族で住むもの。トイレは共同、風呂は湯屋へ。そして共同井戸がありました。「井戸端会議」という言葉が表すように、井戸端は家事ができる居間のようなもの。おかみさん同士が会話をしながら、米を研いだり野菜を洗ったり、そして洗濯などもする場所なのです。そこにはこんなエピソードが。

 井戸端でワイワイ立ち話をしている所へ、運の悪い魚屋がやってくる。おかみさんたちが、寄ってたかって値切り倒し、大振りの魚を刺し身に作らせる。そこへうまい具合に、酒屋の小僧がやってきたので、酒を一升持ってくるように命じ、たちまち車座になり、どんぶり鉢で昼さがりの酒盛りをはじめた。

 主婦は古今東西の例に違わず、大胆で豪快。こうして下ごしらえした材料を家に持ち帰って煮炊きします。長屋の玄関を入ると、すぐに土間があり、その横に台所がありました。台所の3点セットは、釜戸と流しと水がめです。当時の流しは木製で、深さがなくトレイくらい。今のように豊富に水を使えなかったため、水がめにためておいた貴重な水を大事に使うための知恵です。そして、釜戸は煮炊き用に火を入れて、火吹き竹で火元へ息を送り火力を調節するといった大変なもの。「飯釜へ嫁の見ぬ間に一柄杓(ひとひしゃく)」という川柳は、釜戸を舞台に水加減をめぐる嫁と姑の攻防を表す微笑ましいエピソードです。

長屋見取図

くらしの今と昔

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