歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



細密画のように細やかに描かれる留袖の裾模様

図柄の多くは金沢の自然に想を得て描かれる

鮮やかな色彩で布に命を吹き込む柿本さん

極めた技に心を遊ばせる、美の世界

 加賀五彩(紫・緑・黄土・臙脂・藍)を基調とした独特の色使いと、写実的な画風が特徴の加賀友禅。石川県の無形文化財、加賀友禅作家の柿本市郎さんの作品は、時代の波に揺り動かされることなく、図柄から色使いに至るまで、伝統的な加賀友禅の美を極めている。

 「着物は、作り手である私自身が一番前に出るようではいけない。着る方の美しさを引き出す図案、柄の置き方が大切です」

 柿本さんの加賀友禅に向かう心得は『いい時こそ丁寧な仕事をせよ』。図柄は、兼六園などを散歩しているときに思いつく。些細なものでも、美しいと感じる想いがイメージにつながるとか。スケッチを何枚も重ねて描き出される図案は、思わずため息が出るほど精緻だ。加賀五彩をもとに作り出される60色あまりの色が、そこに挿されていく。

 「センスももちろん大事ですが、最後には経験が物を言う。着物以外のものもいろいろ見て、さまざまな経験をした人の作品は、深みというか色気があるんです」

 先日、旅行先の海外で見たオーロラに、触発されたという柿本さん。今度はその美しさを加賀友禅で表現してみたいそうだ。


落ち着いた地色に花を流れで配した訪問着

能衣裳風に柄を配した、個性的な訪問着

柿本さんが愛娘のために制作した花嫁暖簾
柿本市郎プロフィール

1937年

石川県金沢市に生まれる

1955年

加賀友禅金丸工房に入り、人間国宝の故・木村雨山氏、故・能川光陽氏の指導を受ける

1967年

独立し現在に至る

受賞歴

1979年

第一回伝統加賀友禅工芸展 銀賞(以後三回受賞)

1981年

第七回加賀友禅新作競技会 石川県知事賞(以後二回受賞)

1986年

第八回伝統加賀友禅工芸展 金賞(訪問着・白い花、石川県立美術館買上)

1992年

第十四回伝統加賀友禅工芸展 金賞(訪問着・馬酔木、石川県立美術館買上)

1993年

第十九回加賀友禅新作競技会 中部通商産業局長賞

1994年

石川県指定無形文化財技術保持者認定
加賀友禅技術保存会会員
加賀友禅振興協会理事

1995年

伝統工芸士に認定

歌舞伎と旅

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