歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



歌舞伎座内の会場で、まずは観劇の予習
左:特別講座がはじまるまでの時間、テーブルに配布された資料にじっくり目を通される方も多くいらっしゃいました。/右:会場となった、地下食堂「花道」。
受付では「今日は、楽しみにでかけてきましたよ」と声をかけてくださるお客様も。

 今回のイベントのねらいは、ズバリ歌舞伎座で特別気分に浸って観劇を楽しんでいただくこと。「歌舞伎座さよなら公演九月大歌舞伎」(夜の部)をご覧いただくのはもちろん、観劇直前に特別講座をご用意し、見どころなどを楽しく学んでいただくプログラムとさせていただきました。

 特別講座の会場は、歌舞伎座の地下1階にある地下食堂「花道」。すぐ上の1階では、まさに昼の部の公演が行われている真っ最中で、かすかに舞台の音がもれ聞こえてきます。抽選でご招待したお客様は85名様。テーブルにつかれると、近隣のお席の方と、歌舞伎のお話などをされる方も多く、なごやかな雰囲気で開催を待っておられました。

 そして、いよいよ特別講座のはじまりです。講師は、イヤホンガイドの解説員として活躍されている塚田圭一さん。司会者からの紹介に導かれて、塚田さんが登場されます。

 「どうも塚田でございます。よろしくお願いします」 おなじみの声がマイクから流れると、会場からは「ああ〜」と静かなどよめきが。そして盛大な拍手が送られました。

 塚田さんからは、夜の部の演目『浮世柄比翼稲妻 鞘當 鈴ヶ森』『勧進帳』『松竹梅湯島掛額 吉祥院お土砂 櫓のお七』について詳しく解説をいただきましたが、そのなかから、ご自身がイヤホンガイドで解説を勤めておられる『鈴ヶ森』についてのおはなしを一部ご紹介します。

 「鈴ヶ森というのは江戸時代に刑場があった場所で、現在でも東京都品川区に地名が残っています。ここには俗にひげ文字と呼ばれる特徴のある書体で南無妙法蓮華経と書かれた題目供養塔がありますが、これは歌舞伎の舞台上にも大道具として登場します。この地では、大物の罪人がたくさん処刑されていますが、『鈴ヶ森』に登場する白井権八もここで露と消えています。

 この演目は、幡随院長兵衛と白井権八が軸となっていますが、実際には幡随院長兵衛が死んだ後に白井権八が生まれておりますので、二人が顔を合わせるわけがないんですね。ただ、それが歌舞伎でございまして、江戸の人気者である二人を会わせてみたいという庶民の願望があったんでしょうね。そこから舞台が生まれているというのがすごいですね。例えば相撲でいうと、朝青龍と大鵬を組ませたところがみたい!という感じでしょう。

 みどころとしましては、幡随院長兵衛と白井権八を演じる、中村吉右衛門、中村梅玉のセリフまわしのすばらしさ、そして立廻りのおもしろさを楽しんでいただければと思います」

 渋みのある落ち着かれた声で、ときには軽快な冗談も交えながら楽しく解説いただきました。

左:資料を手に、皆様熱心に話を聞いておられました。
右:塚田圭一さん。フジテレビの常務取締役、共同テレビの代表取締役会長なども歴任され、テレビのお仕事の実績も多数。一昨年のニューヨーク、昨年のドイツ・ルーマニアの平成中村座公演の実行委員長を務めるなど、海外公演のイベントにも多く取り組んでおられます。

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