歌舞伎いろは

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名エピソード満載!山川さんの鑑賞ガイド
 
鑑賞ガイド役の山川静夫さん

 今回の観劇イベントは、秋の恒例となった秀山祭九月大歌舞伎(夜の部)のご観劇にオリジナルの特典をプラスして皆様に楽しんでいただくという内容でした。応募数は、なんと約1000名。そのなかから厳選に抽選し、40組80名様をご招待しました。

 観劇の前には、「紅白歌合戦」などの看板番組の司会を担当し名司会者として名をはせた元NHKアナウンサーの山川静夫さんをお招きして鑑賞ガイドを行いました。山川さんは、古今の名舞台を知り尽くした歌舞伎愛好家としても広く知られています。耳になじみのあの美声で、音吐朗々と台詞を語られる場面などもあり、会場は大変盛り上がりました。名調子をお聞かせできないのが残念ですが、お話の一部をご紹介いたしましょう。

 「本日、皆さまにご覧いただく演目には『俊寛』がありますね。今の吉右衛門さんの祖父にあたる初代吉右衛門(1886-1954)は、台詞回しが巧みなことで知られていましたが、俊寛を演じるときのちょっと悲痛な叫び声など、とてもよかったです。この初代吉右衛門は俳人としても優れた方で、秀山(しゅうざん)という俳名をお持ちでした。今月(9月)の興行には秀山祭(しゅうざんさい)という冠が付いていますが、これはそれにちなんだもの、つまり初代吉右衛門の追善興行であることを意味しています」

山川さんのお話は大変楽しく、終始笑い声が響いていました。
絵看板で飾られた新橋演舞場の玄関
 

 『引窓』や『うかれ坊主』など、その後ご覧いただく演目の見どころをコンパクトに、そしておもしろく解説してくださる山川さん。会場のみなさんも、ぐいぐいとお話に引き込まれていきます。それから、ときどき織り込まれる山川さんの想い出話が絶品です!

 「私の父は神主をしておりまして、私もその道に進むことを望まれて国学院大学へ入学しました。郷里の静岡から東京に移ったわけですが、その東京で歌舞伎と出会い人生の道が大きく変わっていきました。初めて歌舞伎を見たのは昭和28年1月、歌舞伎座。初代吉右衛門と六世歌右衛門の『籠釣瓶(かごつるべ)』を一幕見で見ました」

 山川さんはここで、『籠釣瓶』の台詞の一節を初代吉右衛門の声色でご披露くださいました(会場からは大きな拍手!)。

 「歌右衛門さんは本当にきれいで、こんなに美しい男の人がいるのか、と思いました。そうして歌舞伎にどんどんのめり込んでいったわけです。それを見かねたのか、あるとき故郷の父親が富士山の山頂で祝詞(のりと)の稽古をしろと言うんです。神主があげる祝詞というものはひと息でたくさんの言葉を言わなくてはいけないんですね(ここで祝詞を披露!)。それを役者の声色(こわいろ)でやってみようと(会場・笑)」

 山川さんはまずは先代の勘三郎風に祝詞をあげ、次は歌右衛門風、梅幸風と巧みに声色を変えていかれます。これには会場も大いに盛り上がりました。他にも歌舞伎が好きな方にはたまらないお話をたくさんしてくださり時間はあっという間に過ぎていきました。そして最後に歌舞伎を見る上での心構えをこのようにおっしゃいました。

 「他人の批評やメディアの評論を気にせず、ご自分の尺度で歌舞伎を見ていただきたいですね。ご自分が面白いか、面白くないか。それを大事にして欲しいと思います」 充実した内容ながら笑い声がたえない、楽しい鑑賞ガイドでした。

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