人とデザインの脈流

INAXライブミュージアムの中にある
「世界のタイル博物館」


 生活文化への理解を深めながら、オリジナリティあふれるデザインを追究する企業、INAXは歴史的なタイルの原料や製造過程を研究し復刻をしています。
 このページでは、愛知県・常滑市にあるINAXライブミュージアムの中から、人類が遥かな歴史の中で生み出してきたデザインを物語る貴重な展示をご紹介してゆきます。

モダンタイルを作り上げたクラフトマンシップII

写真1 INAXライブミュージアム展示トンネル窯

 今回は、ライブミュージアムに保存する2番目の窯であるトンネル窯(写真1)を紹介します。トンネル窯とは、文字通りトンネル状の長い窯で、中央部を常に1200度に保ち、入り口から出口まで製品を積載した台車(写真2)が通過することで焼き上げるというものです。この窯の発明は、窯業界においての重大な技術革新であったようです。すなわち、前回紹介した石炭燃焼型の平地窯が、成形した素地を窯に入れ、焼成後冷却して取り出すまでに15日間の時間が必要であったのに対し、トンネル窯は2〜3日で製品を焼成することができたのです。


写真2 トンネル窯 台車

 前回紹介した「倒炎式角窯」は常滑の土管産業を支え、昭和30年代には400本を越える煙突から真っ黒い煙を吐き上げていました。「当時常滑の雀は黒かった」というような、環境への取り組みが浸透した今の時代には笑うに笑えない話をお年寄りから聞く事もあります。また、一月に2回の焼成工程しかできない窯ではその生産量には限界があり、窯でトラブルが生じれば半月分の仕事が水の泡となってしまったそうです。したがって、当時の工場では窯炊き職人が実権をにぎり、工場長は窯炊き職人のご機嫌を損ねないようにしなければならなかったという話もよく聞きます。


写真3 工場でのトンネル窯(台車をすべて外した状態)

 このような、非効率で環境的にも問題のあった窯に技術革新を起こしたのが19世紀の終わりにフランスで発明されたトンネル窯だったようです。日本の窯業メーカーも大正時代の終わりから導入をすすめ、食器、碍子、衛生陶器やタイルなど多くの窯業産業で昭和のはじめに導入が進みました。トンネル窯は、今でも現役で稼動しているものが数多くあります。今回紹介するトンネル窯は、2005年まで使用されていたタイル製造用トンネル窯(写真3)の一部を移設して展示公開しているものです。

 「博物館入り」という言葉は、ある時代が終わったモノを指して表現することがありますが、このトンネル窯を博物館で展示することになったのは、まさにこのトンネル窯も時代が終わろうとしているからです。現在の最新の窯ではさらに技術が進歩して数時間で製品を焼き上げることが可能になり、多くのタイルはこのような最新の窯を用いて数時間で商品化されています。

 しかしながら、最近「世界のタイル博物館」に展示されている100年前のタイルをご覧になった方々から、現在のタイルと比較して古いタイルの方がすばらしいと聞くことが多々あります。時代が進み技術が進化することで、何かが失われているような気がしています。効率化することによって失われてきたものを再度考えさせられるのが、このトンネル窯の展示です。

文:愛知県常滑市INAXライブミュージアムものづくり工房 後藤泰男

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