装飾に宿る美意識

INAXライブミュージアムの中にある
「世界のタイル博物館」
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 生活文化への理解を深めながら、オリジナリティあふれるデザインを追究する企業、INAXは歴史的なタイルの原料や製造過程を研究し復刻をしています。
 このページでは、愛知県・常滑市にあるINAXライブミュージアムの中から、人類が遥かな歴史の中で生み出してきたデザインを物語る貴重な展示をご紹介してゆきます。

現代日本のタイル装飾I 「岡本太郎のモザイクタイル壁画」

写真1 世界のタイル博物館 日本のモザイクタイル壁

写真2 地下鉄日本橋駅モザイクタイル壁画(1952年)

写真3 横浜市並木幼稚園 岡本太郎画伯モザイク壁画 除幕式(2009年9月1日)

 世界のタイル博物館のタイル空間に展示している日本コーナーの壁は、10×10㎜のモザイクタイルで日本の四季を表現しています(写真1)。モザイクの語源は、ギリシャ神話の女神を意味する英語「Muse(ミューズ)」といわれており、中近東や欧州の宮殿や寺院の壁面を石やガラス、さらにはタイルの小片で様々な文様や画が描かれている様子に魅入られた方も多いと思います。

  日本にモザイクタイル画が入ってきたのは明治時代のことで、西洋建築と共に欧州からもたらされました。その後、大正時代末期以降には、規格化された形と色の工業製品としてモザイクタイルが登場し、現代まで文様や絵画を表現する素材として使われてきています。伊奈製陶(現INAX)では、昭和の中ごろに「アートモザイク」という商品名で、東郷清児などの有名画家の作品をモザイクタイルセットとして販売していました。昭和27年には岡本太郎も伊奈製陶を訪れ、モザイクタイルで壁画を制作したという記録も残っています。(写真2)

 昨年、この岡本太郎の1980年の作品である「海辺の太陽」というガラスモザイクタイル壁画を修復再生して欲しいと、持ち主である横浜の並木幼稚園から依頼を受けました。この再生をタイセイ総研が総合監修で、INAXライブミュージアムが施工監修をして再生し、今年9月に除幕式をとりおこないました(写真3)。修復は、岡本太郎記念館からお借りした原画の色合いを読み取り、23色のガラスモザイクタイルを選ぶことから始めました。モザイクの敷き並べは、油彩の原画で表わされている筆の動きや刷毛目をモザイクタイルの傾きやタイルを切り刻むことで表現するなど、岡本太郎さんが当時の職人に託したであろう思いを推測しながら作業を進めました。施工を担当した職人さんとは、「岡本太郎さんにはなれないけれど、当時の職人さんの気持ちになって作業をしよう」と話しました。「ものが語る」とはよく言いますが、まさに再生を通してモザイクタイルが語りかける、当時の岡本太郎さんの気持ちを感じることができ、とても幸せな作業でした。

文:愛知県常滑市INAXライブミュージアムものづくり工房 後藤泰男


江戸職人手帖

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