名優の写真集・その2 『五世尾上菊五郎』
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≪團菊左≫と明治の劇壇でその存在をうたわれた九代目市川團十郎、五代目尾上菊五郎、初代市川左團次。中でも一番、江戸の役者らしさを残していたのが五代目菊五郎(1844~1903)でしょう。 生涯に360余もの作品を生み出し、坪内逍遙に「江戸演劇の大問屋」と称された狂言作者河竹黙阿弥は、九代目團十郎のためには≪活歴(かつれき)≫と言われる史実に忠実な歴史劇を、五代目菊五郎のためにはその江戸っ子気質を十二分に生かした世話物を多く書き下ろしました。『青砥稿花紅彩画・白浪五人男(あおとぞうしはなのにしきえ・しらなみごにんおとこ)』や『新皿屋舖月雨暈・魚屋宗五郎(しんさらやしきつきのあまがさ・さかなやそうごろう)』といった彼の当り役は、今も歌舞伎の人気狂言として伝えられています。 その黙阿弥の作品をはじめ、おそらく千枚を超えると思われる五代目菊五郎の扮装写真を42センチ×26センチ、166丁という写真集に収めたのがこの『五世尾上菊五郎』です。大正12年の関東大震災により、尾上家が所蔵していた五代目菊五郎の写真が失われてしまったことを残念に思った六代目菊五郎が、『舞臺之團十郎(ぶたいのだんじゅうろう)』を編集した安部豊に編集を依頼しました。 全国に写真蒐集の手を広げ、六代目菊五郎はもちろん、六代目の義兄である六代目尾上梅幸、弟の六代目坂東彦三郎ら身近にいた人々からの情報や解説、衣裳や鬘などの専門家の意見も参考に、その写真の撮影された年月、扮した役柄を調査し編集が進められました。一家一丸となっての四年強にわたる作業でした。 題字は尾上柴舟、題簽(だいせん※)は坪内逍遙、中表紙の題字は西園寺公望、横山大観に菊の絵を揮毫してもらい、見返しには五代目菊五郎の描いた洒脱な芝居絵が用いられて、巻末には出演年表もつけられています。 題簽(だいせん※):題を書いて表紙に張る紙片や布片 |
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文・飯塚美砂(財団法人松竹大谷図書館) |
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