名優の写真集・その5 『六代目菊五郎』
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一見したところは装丁も大きさも<名優の写真集・その2>でとりあげた『五代目菊五郎』と同じものに見えますが、これはその五代目の息子、六代目菊五郎の写真集です。 六代目尾上菊五郎は昭和24年7月10日に亡くなりました。そのお通夜の席で「これから様々な六代目に関する出版物が出るであろう、その出版を止めるわけにはいかないが、事実と品位をおとしめない"定本"となるべき写真集、評伝、伝記を菊五郎のためにも作っておくべきではないか」という意見がでました。早速その一ヵ月後、久保田万太郎、河竹繁俊、安部豊、遠藤為春ら12名が『六代目菊五郎』刊行に向けて準備会を開き、出版委員会を立ち上げますが、さらに政界、財界、文化界...と各界を代表するような人物が、その出版委員として名を連ね、また実際に写真の蒐集や編纂、製本などに協力しました。 六代目菊五郎の活躍した大正から昭和にかけてという時期は、日本における写真技術が格段の進歩を遂げた時期でもありました。劇場では俳優の扮装写真を絵葉書に仕立て、お土産に販売していました。六代目菊五郎は様々な趣味に精通しており、写真撮影も玄人はだし。それだけに自分の写真についても注文が多く、劇場出入りの写真館ではなく、個人で契約した専属の写真館に撮影させています。現在まで、多くの俳優の写真が伝えられていますが、そのブロマイド絵葉書の種類、量ともに断然多いのは六代目菊五郎です。 尾上家に残っていたこれら大量の写真に、出版委員会会員の所蔵品なども加え総計2万枚という写真の中から728枚が厳選されました。写真集に取り上げるにあたっては、六代目菊五郎の演技への評価に見合うだけの演目、クオリティーを満たす写真を選ぶのも難事業でしたが、委員たちは労苦を惜しまず、4回も編集をやり直しながらも、六代目菊五郎一周忌に合わせ発行させています。 ちなみにこの写真集のお値段五千円は、当時の公務員初任給にほぼ匹敵する金額でした。 |
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文・飯塚美砂(財団法人松竹大谷図書館) |