名優の写真集・番外編その2 木村伊兵衛の舞台写真集

1.六代目尾上菊五郎
  舞台写真集

写真撮影:木村伊兵衛
発行者:関逸雄
発行所:和敬書店
発行年月日:昭和24年11月15日
限定本300部
定価:1200円

2.十五世市村羽左衛門
  舞台写真集
  木村伊兵衛作品を中心として

写真撮影:木村伊兵衛(第二部)ほか
発行者:関逸雄
発行所:和敬書店
発行年月日:昭和26年11月23日
限定本300部
定価:1200円

   

 戦前戦後にわたり、写真界の第一人者として名を馳せたカメラマン、木村伊兵衛(1901~1974)。日常の一コマを切り取った風景や人物の本質を捉えたスナップ写真などが有名ですが、彼も舞台の撮影に挑戦していました。その成果は木村伊兵衛名作全集や作品全集に収められていますが、松竹大谷図書館で所蔵している二冊の写真集でも見ることができます。


1.六代目尾上菊五郎舞台写真集
 この写真集の、木村伊兵衛本人が書いた前書きによると、戦前昭和14年ごろ、外務省文化事業部に日本の文化を世界に紹介したいという意向があり、六代目尾上菊五郎の歌舞伎海外公演を想定して、その予備知識として海外に送るための写真を撮影するという依頼が伊兵衛にあったとあります。六代目菊五郎の海外公演という当初の思惑は、諸々の事情で立ち消えましたが、伊兵衛はその後も撮影を続け、3000枚余の六代目菊五郎の写真を撮影しました。その中から厳選された70余点を展覧会で発表しましたが、戦後の昭和24年、印刷技術の向上を待って、ようやく写真集として上梓されました。

 カメラの性能が格段に上がったとはいえ、暗い劇場内での撮影はまだまだ無理があり、俳優の写真も実際の舞台を撮影するのではなく、ポーズをつけての撮影が多かったなかで、木村伊兵衛は"舞台そのままの生きた動きをカメラに収めること"にこだわりました。撮影する側(カメラマン)とされる側(俳優)の意識の差や、名優の芸の真髄が現れるその一瞬をフィルムに写し取りたいという意気込みを語ったあとがき「撮影について」は、舞台撮影を試みるすべてのカメラマンにとって、機材の性能の進んだ現在においても一読すべき文章となっています。


2.十五世市村羽左衛門舞台写真集
  木村伊兵衛作品を中心として

 全体を四部に分けた170枚余の写真のうち、第二部67枚が木村伊兵衛の撮影になるものです。おそらく昭和10年代でしょう(この二冊の写真集で残念なのは、撮影年月上演劇場が明記されていないことです)。『仮名手本忠臣蔵』や『助六由縁江戸桜』などの連続写真には、"写真として見られることを意識して撮った"美しいだけの羽左衛門とは違う、一種凄みさえ感じられる臨場感があります。

全8回でお届けした「名優の写真集」はこれで最終回になります。ご愛読ありがとうございました。
文・飯塚美砂(財団法人松竹大谷図書館)