名優の写真集・その6 『十五世市村羽左衛門舞台写真集』
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大正、昭和期を通じて、その明快な芸風と美貌と愛嬌で万人に愛された十五代目市村羽左衛門は、昭和20(1945)年5月6日、まだ桜の残る信州の疎開先で72歳で亡くなりました。十五代目羽左衛門は長い舞台生活を通して生涯歌舞伎座を離れなかった人ですが、その歌舞伎座も同月25日に空襲を受け焼失しました。「やはり羽左衛門と歌舞伎座の間には因縁があったように思える」と、この写真集の序文で松竹株式会社社長(当時)大谷竹次郎が述べています。 『舞台之團十郎』(九代目市川團十郎写真集)や『魁玉歌右衛門』(五代目中村歌右衛門写真集)は大正14(1925)年の関東大震災により、発送できないうちに焼失したり、資料が無くなってしまったり...と出版に際して多くの被害を受けたのですが、十五代目羽左衛門の写真集に関しても、生前羽左衛門本人が安部豊に自分の写真集も作ってくれ、と依頼し用意していた資料がこの昭和20年の東京大空襲により灰燼に帰すという憂き目にあいました。安部は戦後、気になりながらもどうしようもなく、そのままになっていたのですが、京都在住の演劇評論家で隈取や写真のコレクターとして長年にわたり活動していた菱田雅夫が写真を集め編集して、十五代目羽左衛門の七回忌に合わせ出版したのがこの写真集です。 36×26センチ、60丁余、見返しには本人の描いた梅の絵、江戸紫に「橘」の紋をあしらった装丁は、重量では他の写真集にかなわなくとも、おしゃれで鳴らした羽左衛門らしいものとなっています。 |
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文・飯塚美砂(財団法人松竹大谷図書館) |