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東蔵が重要無形文化財保持者各個認定(人間国宝)の喜びを語る
7月15日(金)、中村東蔵が重要無形文化財「歌舞伎脇役」保持者の各個認定(人間国宝)を受けることが発表され、歌舞伎座「七月大歌舞伎」出演中の東蔵が取材に答えました。
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芸養父、歌右衛門への感謝
「私の師匠であり芸養父である六世中村歌右衛門に、まず報告しなくてはと思いました。きっと喜んでくれると思いますが、同時に、えっ、お前さんが文化財?と、笑われる顔も浮かんできた次第でございます」。認定の連絡を受けた際の心境を聞かれた東蔵は、「びっくりは当たり前ですが、大変うれしかった」と喜ぶと同時に、「こうなったのは兄さん(歌右衛門)のおかげ」と、感謝を捧げました。
芸事の環境に恵まれた家に生まれ、「歌舞伎の道に誘い込んでくれた紫の姉(舞踊家の故藤間紫)はきっと喜んでくれる。歌舞伎の教養を仕込んでくれた義理の兄の六世勘十郎(二世藤間勘祖)もよかったよかったと言うと思うけれど、義兄はいつもそう言うので信用できない」と、冗談交じりに話した東蔵。「一番喜んでくれるのは母」と、芝居好きの母から『酒屋』のクドキを子守唄代わりに聞いていた、幼い頃の思い出を明かしました。
芝居が好き、好きなことはつらくない
東蔵が歌舞伎脇役の重要無形文化財と聞いて思い浮かんだのが、六世市川團之助(昭和35年認定)や三世尾上多賀之丞(昭和43年、ふけ女方として認定)で、「そういう方がもらわれるもので、自分には本当に縁遠いと思っていました。(人間国宝は)コツコツ芝居をして、血のにじむ努力をなさる方というイメージ」と話し、「(自分は)ただただ芝居が好き」で、なんでもいやいやするのはつらいけれど、「好きなことはつらくないんじゃないでしょうか」と語りました。
工夫と挑戦で広がってきた役の幅
「のんびり流れに身をゆだねているうちにこうなった。芝居が好きなので主役をやりたいと思ったこともありますが、与えられた役に次々と取り組むうちに、幅の広い役者だといわれるようになり、おかげで今度のような文化財にもなった。流れに身をゆだねるのは悪くはない」という言葉には、好きという気持ちの純粋さが表れていました。
子役から、映像や舞台で活躍し、実兄(舞踊家、藤間大助)が歌右衛門の芸養子として二世中村藤太郎を名のっていた縁もあり、歌右衛門の芸養子となったのが23歳のとき。「どんどん役をつけていただき、ともかく好きなことをやれるんだ、うれしいなうれしいなという毎日で、いつの間にか歌舞伎役者になって50余年が過ぎておりました」。
好きな役は『江戸城総攻』の益満休之助(昭和48年11月国立劇場)。『盛綱陣屋』の微妙、『引窓』お幸、『絵本太功記』皐月などが、「やっていて面白い」と話し、来る役を拒まず、「いろんな方の演じ方を拝見し、こういうことをなさるんだ、面白いな」と役に取り組み、「工夫をする」のが東蔵のやり方で、「こんな役もできるぞ、という挑戦」が、役の幅を広げることになったのではないかと語りました。
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舞台で大切にしているのは、「以前はテクニック云々を考えましたが、今はやはりどの先輩もおっしゃるように、気持ちだなと実感しています。役の性根から外れなければなんでもあり。ですから、これが絶対いいと人に言いきれない。私のことを見ていいなと思ってくれることがあれば、それが歌舞伎界に貢献していることになるのでしょうけれど」と話す東蔵の言葉の裏には、「これでいいのか、といつも自問している」真面目で真剣な、歌舞伎に対する姿勢がありました。
現在、歌舞伎脇役としての人間国宝は、澤村田之助(平成14年認定)に続き、東蔵が2人目。このほか、歌舞伎立役の坂田藤十郎(同6年認定時は三代目中村鴈治郎)、尾上菊五郎(同15年)、中村吉右衛門(同23年)、片岡仁左衛門(同27年)、歌舞伎女方の坂東玉三郎(同24年)の計7人が、歌舞伎界での人間国宝となります。