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歌六が重要無形文化財保持者各個認定(人間国宝)の喜びを語る
2023年7月21日(金)、中村歌六が重要無形文化財「歌舞伎脇役」保持者の各個認定(人間国宝)を受けることが発表され、取材に答えました。
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「およそ、私などが認定していただけるものではないと思っていましたので、びっくりいたしました」と、謙虚に語る歌六。認定の連絡を受け、家族が驚くほど号泣し喜んでくれたと言います。「先輩方のお蔭で今まで役者を続けてこられて、今回このような名誉を頂戴できました。先輩、両親、祖父母、そして見えない力で後押ししてくれた家族に感謝しております。(人間国宝は)偉大なる先輩方が認定されてこられたので、汚してはいけないと、その責任を痛感しております」。
印象深い舞台
これまで芯を支える大役を幅広く演じてきたなかで、特に印象深いのが、「(二世中村)吉右衛門のお兄さんと勤めさせていただいた(『伊賀越道中双六』の)『沼津』と『岡崎』です」と明かします。「『沼津』は、お客様の反応もダイレクトで楽しい、本当によくできたお芝居で、三代目歌六と初代吉右衛門のおじ様がなさってきたものを、当代の吉右衛門のお兄さんと演じられるうれしさもありました。『岡崎』は過去の上演が少なく、お兄さんと相談しながらつくり上げ、歌舞伎として初めての読売演劇大賞をいただいた思い出深い作品です」と、感慨深げに振り返ります。
「演じるうえで、型ではなくその肚(はら)や気持ち、感情が前面に舞台に表れることが一番大事だということ。播磨屋の芸と皆様がおっしゃるのは、多分そういうことなんだろう」と、真剣な表情を見せます。「吉右衛門のお兄さんは、私が何か賞をいただくと、いつもご自分のことのように喜んでくださった、その声が今は聞けないと思うと、少し寂しいですね」としみじみ。「先輩方から教わったことを次の世代へ伝えていきたい」と述べ、「楽屋での雑談や食事の場でね」と、温かい口調で語りました。
古典の役々の一方、新作や復活狂言の役づくりについては、「我々はいつも、先人や先輩がなさってきたところを目指して、一歩でもそこに近づきたいと足掻いていくわけですが、新作や復活狂言は、そういった模範解答がありません」と、その難しさを説明します。「自分が正解のような錯覚に陥らないよう、絶えず自分を客観的に見られる精神や目をもっていないと怖いなと思います」と、冷静な視点を忘れません。
やはり芝居が好き
昭和30(1955)年に四代目米吉として初舞台を踏み、ここまで歌舞伎俳優を続けてきたことについて、「芝居が好きなんでしょうね、やっぱり。役者以外に何もできなくて、それで好きだときていたら、ほかにやることがない(笑)。気がついたら70年近く経っていました」。喜びを感じる瞬間を問われ、「舞台を観ていただいているお客様の反応が我々の栄養素。それを糧にして、芝居を続けています。辛いときもありますが、だからこそ、お客様との交流が感じられたときのうれしさが、より深く感じられます」と、笑顔で答えました。
今後に向けて、「どんなお役でも演じさせていただきたい。やりたいお役は山ほどあります」と、いっそうの意気込みを見せた歌六。「自分が年をとったとは思っていません。未だ発展途上の身でございます。“一生修業、毎日初日”という精神で、真摯に舞台を勤めていくことが、私にできること。まだまだ、若い気持ちで頑張ります」と、熱い思いを伝えました。
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現在、歌舞伎脇役としての人間国宝は、中村東蔵(平成28年)に続き、歌六が二人目。このほか、歌舞伎立役の尾上菊五郎(同15年)、片岡仁左衛門(同27年)、中村梅玉(令和4年)、歌舞伎女方の坂東玉三郎(平成24年)の計六人が、歌舞伎界での人間国宝となります。