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梅玉が重要無形文化財保持者各個認定(人間国宝)の喜びを語る
2022年7月22日(金)、中村梅玉が重要無形文化財「歌舞伎立役」保持者の各個認定(人間国宝)を受けることが発表され、取材に答えました。
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「このたび重要無形文化財保持者各個認定をされました。皆様のご支援のおかげです。本当にありがとうございます。思えば昭和31(1956)年の初舞台以来、今年で66年。養父・六世中村歌右衛門の教え通り、歌舞伎の本道をコツコツとひたすらと歩み続けた結果だと思います。これからも芸の向上に精進をいたすことはもちろん、歌舞伎という素晴らしい伝統文化を後世に伝えていくことが、大切な使命の一つだと思っておりますので、皆と力を合わせて歌舞伎をますます発展させていけるように、力を尽くす所存でございます」と、喜びと感謝の挨拶をしました。
養父と先輩方への感謝
認定の喜びをまず養父・六世歌右衛門に伝えたといい、「きっとあの世で、『おまえさんもそこまで来たのか。私は認めてないけどね』と言っていると思います(笑)」と、冗談交じりに話しながら、「でも『良かったね』と喜んでくれるのではないか」と、思いを馳せます。20世紀を代表する歌舞伎の名女方である六世歌右衛門の養子となった梅玉。「歌舞伎の本道をただただ進み、品のある役者を目指さなければいけない」という(父からの)教えを胸に歩んできたこれまでを振り返り、「幸せだと思っています。父の教育方針は間違っていなかったと、今、さらに感じます」と、心境を口にします。
梅玉自身は歌舞伎界を代表する立役の一人で、数多くの当り役をもっています。「前髪(若衆)系の役は梅幸さん(七世尾上梅幸)に習うのだよ、と父が直接おじさんに頼んでくれました」と、七世梅幸から稽古をつけてもらっていたといい、「師匠として尊敬しており、『鈴ヶ森』の権八や『菅原伝授手習鑑』の桜丸、『仮名手本忠臣蔵』の塩冶判官など、数々のお役を懇切丁寧に教えていただきました。私にとって本当に大切な存在です」と、穏やかな口調で感謝の気持ちを表しました。
義経は生涯大切な役
「自分の数々の持ち役のなかで、一番大切にしているのは義経です」と明かした梅玉。「義経は日本人のヒーローですし、特に『勧進帳』と『義経千本桜』の義経は、主役ではありませんが、義経という人物が芯になってドラマがつくられている気がします。そこが演じるうえで非常な喜びです」と、熱い思いを込めます。
「『勧進帳』の義経には、私の祖父(五世歌右衛門)がつくりあげた成駒屋の型があり、私もその型でずっと勤めております。なかなかしどころのない役ですが、実は父に手取り足取り教えてもらったのはこの一役だけで、風格を大切に勤めるように教えられました。『義経千本桜』は「大物浦」で碇知盛が飛び込んだ後に、安徳帝を抱き上げて花道を帰っていく、あのときの義経がものすごく好きです」と、自身が生涯大切にしていきたいとしている、義経の魅力に触れました。
後世に歌舞伎を伝える
現在、こども歌舞伎スクール「寺子屋」の歌舞伎演技部門統括講師や、伝統歌舞伎保存会の副会長として歌舞伎の指導にあたっている梅玉は、「ともかく子どもたちには歌舞伎という文化に触れて、成長の過程において歌舞伎に興味をもっていただければ。それが絶対、将来的に歌舞伎そのものの広がりになる」という思いで、熱心に取り組んでいるといいます。
また、コロナ禍で後輩たちへの指導機会が減ったことについて、「この2、3年ブランクがあっても、若い人たちがその時代時代の歌舞伎をつくり上げ、それが何百年も伝わってきたわけですから、そういう意味では心配はしていません」と、力強い眼差しを向けました。
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「70歳になっても前髪の似合う役者でいたいというのが、若いころからの目標でした。70歳を越してもそうした役ができているのは、気を若くもっているからだと思います。世の中の流れ、流行などを知ることは、気を若くもつために必要なこと」と、満面の笑みを見せた梅玉。今後はこれまで手がけた役や、新しい歌舞伎にも機会があれば挑戦したいと話し、今年2月の歌舞伎座公演を振り返り、「『元禄忠臣蔵』「御浜御殿綱豊卿」を演じるのは6回目だったのですが、やはりまた新たな発見があり、すごく楽しく勤めることができました。まだまだ先輩方に比べれば足元にも及びませんが、新たな発見ができることに生き甲斐を感じています」と思いを込めました。
現在、歌舞伎立役としての人間国宝は、尾上菊五郎(平成15年)、片岡仁左衛門(同27年)に続き、梅玉が三人目。また、歌舞伎女方の坂東玉三郎(同24年)、歌舞伎脇役の中村東蔵(同28年)の計五人が、歌舞伎界での人間国宝となります。