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藤十郎 お初と共に56年
歌舞伎座さよなら公演 四月大歌舞伎において、坂田藤十郎が『曽根崎心中』のお初を勤めます。1953年の初演以来、藤十郎が56年もの歳月をかけて上演を続け、大切に練り上げてきた当たり役です。また、『曽根崎心中』は先に発表された歌舞伎座さよなら公演特別企画 「好きな歌舞伎20選」にも選出された人気の演目です。上演に先立ち、藤十郎が合同取材を行い、『曽根崎心中』への思いを語りました。
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私にとって『曽根崎心中』は大変思い出深い狂言でございます。今回の公演期間中、4月24日にお初を演じて1300回目を迎えることになります。また4月7日はお初と徳兵衛が心中をした日でもあり、とても深いご縁を感じています。
21歳からお初を勤めさせていただいた事で、広く世間を見させていただくことが出来たと思っています。映画やテレビなど違うジャンルの様々な人達と出会うこともできました。本当に、私の手を引いて世に出してくれたのはお初だと思っています。
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今では、56年前の初演の時に舞台をご一緒した方はほんの数人になってしまい、初演から20年以上もたってからお産まれになった方々と舞台をご一緒しています。そう思いますと、この作品は長い歴史を経てきているとつくづく感じますし、ありがたいという気持ちで一杯になります。
最近、この『曽根崎心中』が戦後に新しくできた歌舞伎だとご存じなく、江戸時代から続いてきたお芝居だと思われている方もたくさんいらっしゃるようです。『曽根崎心中』は1953年に出来た歌舞伎で、私が初めてお初を勤めた事をご説明しても、なかなかご理解いただけないこともありました。それは言い換えると、この作品が素晴らしい先輩方が作ってきた古典の作品と同じように、伝統の中に入れていただいているという事でもあり、そう思うとやはり嬉しい思いがいたします。
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私はいつも初演の時のような気持ちでお初を勤めています。お客様の中には、初めてこの舞台をご覧になるお客様も大勢いらっしゃいます。そこではやはり初めて起こった事件の中にお初がいるようでなくてはいけませんし、また自然にそういう気持ちで舞台に出たいと思っています。
海外でも何度も上演させていただきました。海外公演と言っても、演出などは日本と同じ、やはり日本のものをお見せしなくてはいけません。ただ、海外ではカーテンコールが必要です。日本では無いことですので、カーテンコールだけのお稽古をする事もありました。幕が閉まっても暫くはお初の心持ちが抜けず、なかなか"にこっ"とは笑えません。海外公演で一番困るのがカーテンコールかもしれません。
今回、藤十郎襲名の時と同じように、幕をできるだけ閉めずに舞台を転換したいと思っています。お客様の心が心中の場まで途切れないように…すこし大げさな言い方ですが、21世紀の歌舞伎として、そういう心遣いも大事なのではないかと思っています。
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歌舞伎座さよなら公演「四月大歌舞伎」の公演情報はこちらをご覧ください。