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南座「吉例顔見世興行」初日の賑わい

 2022年12月4日(日)、南座「當る卯歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」が、初日を迎えました。

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 本年の「吉例顔見世興行」も、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、昨年に引き続き三部制で上演します。

 

 第一部は、『義経千本桜』「すし屋」で幕を開けます。放蕩息子のいがみの権太(獅童)は、妹のお里(壱太郎)らがいる実家の鮓屋へやってきて、源頼朝に追われる平維盛が匿われていることに気づきます。梶原平三景時(鴈治郎)に告訴して褒美を得ようと、権太は鮓桶を小脇に抱え、花道に勢いよく駆け出します。維盛の首を差し出した権太は、怒った父、鮓屋弥左衛門(片岡亀蔵)に刺されてしまいますが、最後に権太の真意が明かされ…。源平の争いに翻弄された家族の悲劇が観る者の涙を誘いました。

 

 続いて『龍虎』は、雲を操る龍(扇雀)と、風を操る虎(虎之介)の闘いを描いた作品です。幕が開くと、鳴物が響き渡り、緊張感が高まります。そこへ義太夫と琴、尺八も加わって、荘厳な雰囲気のなか龍と虎が現れると、互いに待ち望んだ闘いへの思いを語ります。激しい交戦は、龍の黒色、虎の褐色の毛振りにより表現され、毛振りをしながらの衣裳の引抜きは眼目の一つ。勝敗はつかず、再び静寂を迎えると、緩急あふれる展開に、客席は釘付けになりました。

 第二部は、『恋飛脚大和往来』「封印切」で幕が開きます。賑やかな座敷の裏で井筒屋おえん(東蔵)の計らいにより、久しぶりに逢瀬を果たした亀屋忠兵衛(鴈治郎)と傾城梅川(扇雀)。身請けする金が用意できずにいる忠兵衛をよそに、槌屋治右衛門(片岡亀蔵)は梅川に、丹波屋八右衛門(愛之助)の身請け話を受けるように伝えます。追い詰められた忠兵衛は、八右衛門の挑発にのったはずみで、持っていた公金の封を切ってしまい…。心中を決意した二人の姿は哀愁にあふれ、切ない幕切れとなりました。

 

 続いては、赤穂浪士の吉良討入りの前日から当日を描いた『松浦の太鼓』です。俳諧の宗匠、宝井其角(歌六)は、赤穂浪士の大高源吾(獅童)と師走の両国橋で再会。源吾は「明日待たるるその宝船」という句を残して立ち去ります。隣家の吉良邸に、浪士たちがいつ討ち入るかと心待ちにしている松浦鎮信(仁左衛門)は、其角から源吾の残した句を聞くと、その意味を思案します。折しも隣から陣太鼓の音が聞こえ、討ち入りを悟る松浦侯。愛嬌あふれる人柄を、仁左衛門が20年ぶりに演じ、客席からは大きな拍手が起こりました。

 第三部は、変化に富んだ舞踊がみどころの『年増』で始まります。幕が開くと、そこは花咲き誇る隅田堤。元深川芸者の美しい年増、お柳(時蔵)が駕籠のなかから、ほろ酔いの様子で現れます。馴染みの太鼓持に向かって、お柳が一人でしゃべるクドキがみどころの一つ。旦那との馴れ初めや、浮気現場に踏み込み、大喧嘩をする場面など、常磐津の軽快な節にのって、さまざまな趣向の振りで表現します。酔いも醒めたころ、愛しい旦那のもとへ帰っていく姿に、客席は華やいだ雰囲気に包まれました。

 

 切狂言は、近松門左衛門の名作『女殺油地獄』です。河内屋与兵衛(愛之助)は、放蕩を続けた挙句、親に勘当されてしまいます。これまで弟のように案じてくれた油屋のお吉(孝太郎)に借金を頼み込む与兵衛でしたが、河内屋夫婦の息子に対する情愛を知るお吉に拒絶されてしまいます。切羽詰まって脇差を抜いて迫る与兵衛から逃げ惑うお吉の足を、こぼれた油がすくい…。凄惨な場面でありながら、一つひとつの動作が絵画のような美しさをみせる、歌舞伎ならではの演出に、観客は引き込まれました。

 

 南座「當る卯歳 吉例顔見世興行 東西合同大歌舞伎」は25日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2022/12/09