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仁左衛門が語る『助六曲輪初花桜』

仁左衛門が語る『助六曲輪初花桜』

 10月1日(月)から始まる歌舞伎座百三十年「芸術祭十月大歌舞伎」夜の部で、『助六曲輪初花桜(すけろくくるわのはつざくら)』に出演する片岡仁左衛門が演目についてと、追善となる十八世勘三郎への思いを語りました。

 昭和58(1983)年3月歌舞伎座で初めて演じた助六。「十七代目のおじ様(勘三郎)に教えていただいたんです」。2度目(平成3年3月歌舞伎座)のときは、「十八代目(勘三郎)が白酒売に出てくれました。自分も助六をやりたい、やるときには兄ちゃん教えてよ、と。東京の人に教わるほうが、と言ったら、僕は兄ちゃんに教えてほしいって。それが実現できなかった残念さ」。果たせなかった思いをつないでいくため、十八世勘三郎追善で勘九郎、七之助と同じ舞台で助六を演じます。

 

 『助六曲輪初花桜』は十五代目仁左衛門の襲名披露狂言でもあり、市川家の『助六』の上演とは外題を変え、出端(では)には河東節や清元ではなく、長唄を使います。「気持ちのいい役。この年で勤められるのがありがたい」と、役に対する思いと、これまでの舞台の思い出を語りはじめました。

 

中村屋のおじ様から教わった助六

 十七世勘三郎の教えた助六は、「若さ。前髪(の役柄)ではないけれど、前髪っぽく。かつ、大人っぽく。揚巻の間夫ですからね。ただ、自分とは芸質が違うから、同じに、とはおっしゃらなかった」。仁左衛門は自分の目に残る三世寿海、十一世團十郎のとにかく格好いい助六もとり込んで演じていると語りました。この格好いい二人に対し、「中村屋のおじさんは、“いい男”。そして、せりふのテクニックがすごい」。そのせりふのイキを教わったと言います。

 

 せりふは言葉を明確に伝えるのではなく、「役の気持ちを伝える、思いを伝えるもの。言葉に気持ちを乗せればせりふ回しも変わります。息の継ぎ方もお客様に心地よく伝わらなければいけない。そのためにどういう声を出し、どこで息を継ぐか、どういう言い回しをするか」。息をできるだけ使わずに大きな声を出す、声帯をいかにうまく利用するかなど、自分でも工夫を重ねてきました。

 

仁左衛門が語る『助六曲輪初花桜』

 『助六曲輪初花桜』 片岡仁左衛門

今回は集大成の心構えで

 主役でありながら、芝居が進んでからようやく花道に登場する助六。出端で次々と格好いい姿をきめ、「本舞台に出て行くとがらっと変わる。兄に会ったところ、お母さんに会うところでも変わる。助六は4つ変わるんです」。十七世勘三郎のやり方では紙衣(かみこ)に着替えませんが、「あそこはおじ様も着替えるほうがいいと」、紫と黒の紙衣で和事を見せます。「でも、ご覧になるときはあそこで変わる、なんてことは全部忘れて、観てほしい」。

 

 『助六』という芝居は、「演者がそれぞれ楽しんで、役を生かしていくようにすると、お客様もそういう気分になっていただける。心理をあまり掘り下げてもだめだし、かといって、華やかさだけでもだめ。その兼ね合い」。今回は、「集大成の心構え」でと意気込みを見せたあと、千穐楽にも課題は残っていると思うんですけど、と続けたところに、仁左衛門のあくなき探究心がかいま見えました。

 

あふれる共演舞台の思い出

 数々の舞台で共演した十八世勘三郎。「みんな、楽しかったなあ。(『沼津』の)平作、(『傾城反魂香』の)おとく…。玉三郎さんと三人でやったのも面白かった」と、『梅ごよみ』を演舞場で初演したとき(平成3年6月)、勘三郎がポラロイドカメラで自分を撮って、化粧(かお)の研究をしていたエピソードも明かしました。「立役でも女方でも、書き物でも時代物でも、その狂言、その役にぴったりの化粧が、彼はできました」。僕の中にはまだいるんですよ、彼は、とぽろっとひと言こぼしました。

 

 十七世勘三郎はギネスブックに載るほどたくさんの役を勤め、「しかも当り狂言が多い、それも、多くのお客様に喜んでいただけるものが」。さらに、それを受け継いだ十八世がまた、「本当にすごい役者だったからね」。しみじみと発した言葉にはさまざまな思いがこもっていました。「それを次に受け継いでいってほしい」。祖父の力、父の力を得て、勘九郎、七之助に羽ばたいてほしいと願っています。

 助六がやりたいと言っていた十八世勘三郎の思いを勘九郎につなぐためにも、「勘九郎くんにそばで見ていてほしい。七之助くんを揚巻役者にしたい」。若いうちに経験しておくのとしていないのでは、後々ずいぶん違うからと、「二人に対する期待」を寄せた仁左衛門。

 

 歌舞伎座百三十年「芸術祭十月大歌舞伎」は10月1日(月)から25日(木)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットWeb松竹スマートフォンサイトチケットホン松竹で販売中です。

2018/09/24