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歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」初日開幕

歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」初日開幕

 

 

 11月2日(金)、歌舞伎座百三十年「吉例顔見世大歌舞伎」が、初日の幕を開けました。

 正面玄関の上に座紋の染め抜かれた櫓が上がり、歌舞伎座の顔見世が始まりました。 

 

 酒が好きな又五郎のおゆうと、酒は魔性の水と毛嫌いして金勘定に暇のない時蔵のお辻の『お江戸みやげ』。芝居が進むにつれ、いつのまにか形勢逆転、気が付くと酒で大胆になったお辻を、おゆうがなだめていたりするのが面白いところです。ともに初役ですが、掛け合いの息もぴったり。実は、酒は心が乱れてしくじりが多くなるのでやめたけれど、本当は好きと明かしたお辻が、「一生に一度」のことで手にした江戸みやげ。少しほろ苦いけれどほんのり甘く、かみしめるほどに味の出る芝居です。

 

 酒に目のない太郎冠者が、見事な酔いっぷりを見せる『素襖落』。松緑の太郎冠者がほろ酔い加減から、足元がおぼつかなるほど酔いが回っていく様子に、見ているほうもすっかり浮かれ気分になります。「那須与一扇の的」を物語るところでは、人物の踊り分けが鮮やか。褒美にもらった素襖を主人にとられまいと隠そうとしたり、うっかり落として取り合いになったりと、太郎冠者が真剣になればなるほど笑いが起き、狂言舞踊の魅力あふれるひと幕です。

 

 尾上右近が七代目清元栄寿太夫として歌舞伎の舞台に初お目見得で、いつもと異なる幕開きとなった『十六夜清心』。栄寿太夫が「朧夜に」と、清元「梅柳中宵月(うめやなぎなかもよいづき)」の唄い出しを聴かせ、花道から時蔵の十六夜が駆け込んできました。菊五郎の清心と十六夜の二人を月が見守ります。たっぷりと色事を見せて心中ののち、その後の二人が描かれるところがもう一つのみどころ。清心の心を変えた端唄にもぜひ耳をすませてください。

 浅葱幕が振り下ろされた舞台に桜がちらほらと舞い散り、南禅寺の山門にでんと構えた石川五右衛門。歌舞伎らしさが凝縮したこの一瞬に、客席から思わず歓声が上がった『楼門五三桐』から、夜の部が始まりました。吉右衛門の五右衛門が自分の素性を知り、因縁の敵が真柴久吉とわかったところで、巡礼姿の菊五郎の久吉が登場。顔見世の11月を代表する二人がそろい、ゆったりとうららかな気分にいざなわれました。

 

 続いては歌舞伎座では22年ぶりの上演となる『文売り』。雀右衛門の文売りお京が、梅の枝を手に現れました。「色を商う文売りでござんす」と、名のりを上げて商売を始めます。清元の語りとせりふの掛け合いで、一人の男を巡って二人の傾城が争う様子を面白おかしく踊るところでは、文売りの可愛らしさも加わって客席の視線を釘付けにしました。

 

 猿之助初役の『法界坊』。三代目猿之助(猿翁)が歌舞伎座で演じたのが平成6(1994)年7月、それ以来となる澤瀉屋の『法界坊』です。登場人物の関係やこれまでのいきさつがしっかり描かれる序幕。あとの筋が追いやすくなります。金と色に目がなく、人からは道楽坊主と呼ばれる薄汚いなりの法界坊ですから、自分のことを「この尊い名僧」と言うだけで、客席がどっと沸きます。舞台に法界坊がいるだけで、何かしでかすのではと、お客様も目が離せません。三囲土手で川に沈んだ法界坊が、宙乗りで幽霊になるのは初世猿翁からの型です。

 

 大喜利の『双面水澤瀉』ではがらりと色が変わり、華やかな舞台に。法界坊とは似ても似つかぬ美しい荵売りが、実は野分姫と法界坊が合体した霊で、徐々に本性をのぞかせるところもお見逃しなく。

 秋たけなわの11月、来年の干支にちなんだ土産物も並ぶ木挽町広場には、季節を先取りしたクリスマスツリーも登場しています。

 

 歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」は、11月26日(月)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットWeb松竹スマートフォンサイトチケットホン松竹で販売中です。

 

※「澤瀉屋」「双面水澤瀉」の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です。

2018/11/03