あなたに一問一答 中村時蔵 あなたに一問一答 中村時蔵


 歌舞伎の演じ手である歌舞伎俳優たちに、一問一答でインタビュー。さまざまな質問にお答えいただき、歌舞伎への思いからご本人の素顔まで、たっぷりお伝えします。今回は、6月の歌舞伎座で、中村梅枝から名を改め襲名される中村時蔵さんの素顔に迫ります。


文・構成/歌舞伎美人編集部、インタビュー撮影/松竹ライツビジネス室

――襲名披露狂言で演じられる『妹背山婦女庭訓』のお三輪について意気込みをお聞かせください。

 祖父(四世時蔵)、父(五代目時蔵改め萬壽)も襲名狂言で、お三輪を勤めさせていただいておりました。お三輪は、女方なら誰でも憧れるお役。『妹背山婦女庭訓』の世界観、ファンタジックなところを、存分にお客様に楽しんでいただけるように演じることが目標ですその第一歩として、きっちりと丁寧に勤めたいですね。父からもいろいろ教えていただきながら、お三輪というお役に少しでも近づけたらなと思っております。

――女方として大切にされていることをお聞かせください。

 やはり綺麗と思っていただくことはとても大事だと思います。演劇は「美」というものに対して意識が高く、特に歌舞伎は何に対しても美しさを求める演劇。なかでも女方は、美しさが占める割合がとても大きいと思います。ただ、表面的な美しさだけではなく、やはり手の動きだったり、足の使い方だったり、さまざまな所作からも美しさは生まれてきますので、そうした点にはとても気を付けています。

『妹背山婦女庭訓』杉酒屋娘お三輪

――これまで名のっていた梅枝というお名前についての思いをお聞かせください。

 30年間、梅枝でした。皆さんが僕のことを「ばいちゃん」と呼んでくれるのですが、そう呼ばれなくなるのは悲しいですね。とても気に入っていましたので…。梅枝という名前を名のって、もう手も足も出ないような頃から、本当に大きなお役をたくさん演じさせていただいてきましたので、寂しいですが、思い残すことはないですね。

――お父様の萬壽さんからの教えで、常に心がけていらっしゃることはありますか。

 歌舞伎には品が大事、ということです。どのような役柄であっても歌舞伎は品がなくてはダメだと言われていました。品というものは出そうと思って出せるものではありませんので、普段から心がけるようにしています

――ご家族の皆様へ思いをお聞かせください。

 萬屋に限らず、本名の小川家の親戚の関係性はとても大事にしています。これだけ人数がいるのもなかなか珍しく、全員で16人いるんですよ。今回の襲名でも小川家全員がそろいますし、どんなお役でも、皆さんが快く出演してくださっています。いざというときに集まることができるこの関係性はとても大切だなと感じます。親戚同士だからこそ助け合えることもありますし、それは子どもたちの世代になっても受け継いでいってほしいなと思いますね。

――これからどのような俳優を目指していきたいですか。

 古典歌舞伎を通じて歌舞伎の魅力を伝えられる役者になることが、やはり僕の一番の使命だと思います。これだけ古典ばかり演じている役者も珍しくなってきました。新しいものを否定はしませんが、やはり古いもののうえに新しいものが成り立っているという構図は変わりません。古いものをきちんと守っていく人もいないと、歌舞伎も残っていきませんので、後進の育成という意味も含めて、なるべく古典に携わりたいですね。古典を通してお客様の心に響く芝居をお届けして、またそれができる俳優を育てていく、そういう俳優になっていけたらと思っています。

―― これから歌舞伎をご覧になる方へおすすめの、歌舞伎の楽しみ方やポイントを教えてください。

 あまり難しく考えないで観ていただきたいですね。もちろん敷居が高いイメージもあるかもしれません。でも、歌舞伎にはジャンルがたくさんあって、舞台を観ているだけでも色彩豊かで面白く、音を聞いているだけでも日本の文化に触れられる、そういうさまざまな要素が詰まっていますので、どこかしら興味をもっていただけるところがあるのではないでしょうか。わからないところがあったとしても、あまり身構えずに観ていただきたいと思います。