高野秀士さん (銀座1丁目にあるギャラリーINAX:GINZAで)

銀座INAXギャラリーから 「伝統のクラフトマンシップが生んだ、新しい意匠」

再現された旧帝国ホテル本館(一部)。愛知県常滑にあるINAXライブミュージアム「水と風と光のタイル―F.L.ライトがつくった土のデザイン展」より(2007年11月10日展示終了)

 新たな創造はいつも、時代をリードする芸術家と伝統を継承する職人の手から生まれます。20世紀を代表するアメリカの名建築家フランク・ロイド・ライト。彼の代表作もまた、職人たちの卓越した技術とともに生まれました。

銀座一丁目のINAXギャラリーに所蔵されている貴重なタイルに秘められた物語を、高野秀士さんに紹介していただきました。

高野 「こちらは、フランク・ロイド・ライトの設計によって1923年(大正12年)に完成した帝国ホテル旧本館に使われたタイルです。端整な直線のデザインはロイドの意匠だとすぐに分かる端整なものです。そしてなによりロイドがこだわったのは、この色なんです」

 帝国ホテル旧本館の内外壁を飾るタイルは、フランク・ロイド・ライトがデザインした「スクラッチタイル」と呼ばれる意匠。平らにしたテラコッタの表面に釘で縦に線を入れ、そのつながりによって壁面にグラフィカルな模様が誕生するというコンセプトでした。

 このようにデザインされたタイルは大正時代の日本ではほとんど作られていなませんでした。しかもライトは日本では全く作られていない「黄色」のレンガを求めたと言われています。当時の建築を代表する東京駅を見れば分かる通り、レンガといえば「赤色」が定番。無謀とも言える要求に応えたのが、愛知県・常滑の陶工たちでした。

高野 「ロイドの要求を満たすタイルの原料に選ばれたのは、愛知県知多半島南部で採れる粘土でした。そこで常滑の地に、帝国ホテル直営のレンガ製作所が作られ、地元の陶工たちが新しいレンガを作るため試行錯誤したのです」

 どのくらい土を乾燥させれば歪みのない均一なスクラッチタイルができるのか。窯の温度や焼成時間によっても出来上がりのレンガの色は変わってしまいます。彼らは持っている知識と経験を注ぎ込み、大正7年から10年の3年間で250万個のスクラッチタイル、150万個の穴抜けレンガ、そして数万個の装飾タイルを生産しました。

 工場閉鎖後、技術顧問をしていた伊奈初之丞と息子の長三郎親子によって、伊奈製陶株式会社が創業します。新しいものを創造するために労を惜しまない職人たちの技と誇りは、誰も見たことのなかった「黄色」のタイルを生み出します。そして歴史に残る名建築を飾ったのです。新たな芸術を生み出したクラフトマンシップは今も、受け継がれています。

ご案内:株式会社INAX 経営戦略本部 デザイン統括部部長 高野秀士さん

撮影協力・INAX:GINZA

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