歌舞伎いろは

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二、伊賀の里の組紐職人

 三重県は伊賀市、忍者の里として全国的に名高い伊賀の里に松島組紐店はあります。こちらで、二代目にあたるご主人の松島育敬さん、そして三代目の俊策さんにお話を聞かせていただきました。俊策さんは、伊賀で一番若い伝統工芸士だそうです。

 「伊賀の組紐が明治時代に地域に定着し、昭和24年に伊賀くみひもセンターができた頃、この地域には80から90軒の組紐店がありました。でも、和装離れが進むうちに今では42軒だけとなってしまいました。30年ほど前からは組紐を実際に組む組子さんも減ってしまって、手組みの組紐は本当に希少になっているというのが現状です。」

 松島組紐店では、手組みと機械のどちらも行っているそうで、実際の工程を見せていただきました。

 手組みでの組紐作りの工程は、柄・色選びから始まり、糸を作る帯締めに合わせて分け、染め上げ、その組糸をたまに巻きつけていきます。この後、ようやく台にセットし、実際に組上げていきます。「この時に台にきちんと正座して座らないとまっすぐに組めないんですよ。」と教えてくださったのは、三代目・俊策さんのお母様・文代さん。こうして組まれた組紐が湯のし釜で端末を整えるという最後の工程に辿り着くまでに、柄ものでは2、3日もの時間がかかってしまうそうです。その為、中国などでの工場生産も増えたそうですが、その一方でこんなエピソードも教えていただきました。「先日、舞妓さんから使い込まれた古い帯締めが送られてきたんです。長年愛用していてとても愛着があるのでぜひ同じものを作って欲しいとのご注文だったんですよ。」このような依頼に応じることができるのも糸を染めるところから始まる伝統工芸ならではの良さなのでしょう。

 伊賀の里で幼い頃から組紐が組まれる様子を見て育つ。今、松島家の末っ子のお子さんは組紐に夢中だとか。職人の後継者問題など諸所の問題を抱えつつも、組紐の素晴らしさは、貴重な技術とともにしっかりと受け継がれているようです。

 

組紐歴約50年の松島文代さん。体調の良し悪しがそのまま、組紐に反映されてしまうとのこと。

代々家に伝わる綾書き。これを読みながら柄を組み込んでいきます。

組み終わるまでに無地のもので丸1日、柄ものには2?3日の時間がかかります。

左に置かれているのが湯のし釜。これで最後の仕上げをします。

長沼静きもの学院

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