歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



プロのお針箱

きものショーの裏方で、着付をするのもプロの着付師の仕事。秒きざみのタイムスケジュールで着付けていきます。

七五三、成人式、そして記念の家族写真。とっておきの思い出をつくるとき、その舞台裏には着付師の存在があります。

きものを着る特別な一日には、喪に服す悲しみの日もあります。その方の立場を考え、ときには粛々と着付をします。

 
プロのお針箱

プロのお針箱
野村さんが仕事場に持参するお針箱。きものにほころびを見つけたら、即座に対応できるプロフェッショナルな道具がそろえられています。小物も合わせると数十点も!

 
プロの笑顔

プロの笑顔
いつも温かな笑顔の野村さん。短い間とはいえ、お客様と密な時間を過ごす着付師は、人柄がダイレクトに伝わる仕事でもあります。手にした手づくりアイテムについては次ページに。

 
現場でも続く“学び”
 笑顔の素敵な野村光子さんは、きもの着付のプロを目指して、3年前に長沼静きもの学院の「きものプロ技術科」に入学。みっちり本格的な着付を学んだ後、昨秋に着付師としてデビューしました。
 「最初の仕事は七五三のポージングでした。着付けた後に写真館で撮影をする際、きもの姿をきれいに整えてさしあげる仕事でなんですが、小さいお子さんですからじっとしてくださらなくて大変でした(笑)」

 今では現場で、何人もの着付師と一緒に、ショーの着付をすることもあります。自分の役割をきちんと果たすためには、自主練習が欠かせません。決められた時間できっちりと着付を仕上げるという仕事のプレッシャーに、押しつぶされそうにもなります。
 「それでも、大変だからこそ、やり遂げられたときの達成感は大きいですし、ショーの成功という目標に向け、皆が気持ちを一つにして助け合い、高めあって仕事をするというのは、素晴らしいことだと思います」

 優雅に華やかなショーが進む裏側で、目が回るほどの忙しさ。
 「とても大変な現場なので、もう今年限り!と思うんですが、やっぱり、翌年になると参加してしまう自分がいます(笑)」

 そして、野村さんの現在の主な活躍の場は結婚式場です。
 「結婚式場は、着付師が二人一組で担当することが多くなります。今はキャリア豊富な先輩と組ませていただき、いろいろなことを教わりながら仕事を進めています。現場でしか学べないこともたくさんありますから、日々勉強ですが、それがまたとても楽しいんです」


いざというときも慌てず騒がず
 結婚式場では、一つの披露宴で2、3人の着付を担当。それを日に数組こなすことが多いのだそうです。
 「式場には最初の予約の30分前には入ります。お客様がいらしたら、まずきもの、帯、下着類から腰紐といった小物まで、必要なアイテムがすべてそろっているかをチェック。ときには、あら、腰紐が1本足りないわということもありますが、そういう場合でも慌てず騒がず。小物のちょっとしたトラブルくらいならば、着付の工夫で臨機応変に対応し、きっちり仕上げてさしあげるのがプロの仕事なんだと思います。私はまだまだなんですけれど…」

 アイテムチェックの際、きものなどにほころびなどを見つけたら、お客様の了解をいただいて針を入れることも。そういったイレギュラーな事態にもてきぱきと対応します。

 また、こんなこともあります。足袋や下着類など直接身に着けられるものは、お客様自身に着用していたくのが普通なのですが…。
 「若いお客様などですと、足袋の履き方をご存じない方もいらっしゃいますし、成人式などでは爪にきれいなネイルアートを施した方もいらっしゃいますよね。そういう場合は私たちが足袋も履かせてさしあげるんです。せっかく爪まできれいに着飾ったのに、それを傷つけたりしたら悲しいですもの」

 着付ができ上がったら、草履を履かせてさしあげ、式場に送り出して終了。着ていた洋服類はたたんでお渡しします。


きものと人、縁が結ばれるときに立ち会う
 日々、いろんな方に会い、その方ときものとの縁(えにし)に遭遇するのも、着付師の仕事ならではです。
「きものとの付き合い方は本当に人それぞれですよね。長沼静きもの学院には、“長沼静きものひととき”という、きものレンタルと着付、ヘアメイクをトータルプロデュースするサービスもあるのですが、こちらできものセレクトのお手伝いをすることも仕事の一つなんです」

 「出席されるお式にふさわしい格のきものとはといったお話をして、きものと帯選びをサポートして、ときにはお客様と一緒に小物合わせを考えたりもします。帯締一本でガラリと印象が変わることもあって、自分にお似合いのコーディネイトを見つけられたときのお客様のうれしそうなお顔を拝見していると、私までうれしくなってしまいます」

長沼静きもの学院

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