歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



人柄も技術のうち
野村さんとおしゃべりしていると、とても楽しい気分になるから不思議です。手づくり小物のお話にも楽しいエピソードがいっぱい。

 

手づくりの着付小物
①補整用に使うガーゼを縫い合わせてつくったパッドは、帯締とともに練習用。日々の努力が現場で現れます。②上の赤い小袋は、銀座結びなどで帯枕の代わりに。きものショーなどで活用します。茶と白の腰紐は、きものの身丈が短めのときに使用する半幅のもの、手染めです。「手づくりであまりきれいじゃなくて恥ずかしいわ(笑)」とおっしゃるのを特別に見せていただきました。

 

日々の学びはノートに
仕事場で学んだこと、気づいたことをその場でメモ、家へ帰ってからきれいにノートにまとめていらっしゃいます。着付師・野村さんの大事な大事な宝物です。

 

 長沼静きもの学院には、相手への着付を一年間かけて徹底的に学ぶ、着付師養成コース「きものプロ技術科」があります。現場で経験を積んだベテランの講師陣によるクオリティの高いレッスンを12カ月かけて実施。冠婚葬祭すべてのきもの着付をマスターします。
 結婚式場など、実際の仕事現場を想定した時間配分でのレッスンや、接客ノウハウも学ぶことができ、そこで修了すると取得できるのが、副業にも役立つ資格「きものプロスペシャリスト技能認定」です。また、学院独自の人材登録システム「シザブルスタッフ」制度も用意されており、卒業後のサポート体制も万全です。

 
ときには着付小物を自作することも
 きものは立体的につくられてはいません。しかも、着る人の体型はさまざま。その二つの出会いを美しく仕上げるのが、着付師の腕の見せどころです。
 「先輩の仕事を拝見して感じるのは、補整の的確さです。お客様をひと目見ただけで、どこにどう補整を施せば美しく着つけられるのか、瞬時に判断できる。それはまさにプロの目だなと思います。ほかにもいろいろとプロならではの工夫があって、先輩の技を少しずつ盗んでいる最中なんですが、いざというときのために、私もちょっとした小物を用意しているんです」

 野村さんの手づくりアイテムをちょっと拝見。左の写真をご覧ください。これも先輩着付師に教わったものの一つだそう。
 「たとえば、身丈が短い場合は腰紐を低い位置に結ぶことになりますが、そんなときでもおはしょりから腰紐がのぞいてしまわないように、普通の腰紐を半幅にしたものを着付師が自作しておくんです。これも先輩のアイディアなんですが、きものの色に合わせて濃色のものもあったほうがいいなとなると、紅茶で染めたり。そのままお客様にさしあげることが多いので、いざというときのため、なくならないようにストックしています」


見つけた! 生涯の仕事
 野村さんは長いこと事務職のお仕事をされていましたが、引越しを機に退職。しばらく専業主婦として過ごされていました。
 「そんなある日、娘たちにお母さんは仕事をしていたほうが楽しそうだよ、と言われました。どうも私があまり元気がなく見えていたみたいで…。そのときはすでに40代後半。これから仕事を始めるのなら、生涯やり続けられるものにしたい。それで思い浮かんだのが着付師の仕事でした」

 お母様に勧められて着付を学んだことがあったことと、ご主人もきものがお好きとのことで、着付師ならば、きものを着る楽しさを一人でも多くの方に味わっていただくお手伝いができるのではないか、と思われたそうです。
 「この仕事は本当に一期一会。奥が深くて、これでよしということがないように思います。着せられる方の気持ちをもっと知りたくて、少し前から茶道のお稽古を始めてみました。着付けた後、きもの姿で動いたときにどのように感じるのかは、自分でやってみないとわからないですものね。まだまだ、いろんなことが日々勉強です!」


着付師という職業を選んだ今
 専業主婦から着付師として働く道を選んだ野村さん。今、どんな気持ちで働いていらっしゃるのでしょう。
 「お式でもなんでも、とにかく開始時刻までには何があっても仕上げるのが、着付師の仕事のマスト。当然、常に時間との追いかけっこで緊張します。でも、プロの着付師を依頼されるのは、結婚式や成人式など、その方にとって人生の節目であることが多い。ですから、緊張感もありますけれど、特別な日に立ち会い、晴れの姿をつくってさしあげられるのは大きな喜びです」

 最後に、今後の抱負をおうかがいしました。
 「着付けてさしあげた皆さんに、“きものを着てよかった”と思っていただけるような着付師になれたら。これからが長い道のりですけれど、だからこそやりがいがあるな、と思っています」

長沼静きもの学院

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