歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



着こなしでも軽やかさを演出

着こなしでも軽やかさを演出
おろしたての紅花紬のきものを着てくださった眞島千賀子さん。紅花紬はベージュに見えますが、青やピンクなどが細かく織り込まれている繊細な織りです。少しラメの入ったしゃれ袋帯は、角出し風に結びました。背が高いので、帯結びが少し低い位置にくるこの結び方が、軽やかさを出すのには効果的。帯締、帯揚は青系。帯留にガラスのものを用いて、さらに爽やかさを演出します。

 
今の季節にぴったりな白大島

今の季節にぴったりな白大島
爽やかさを象徴するような白大島を着てくださった前田登美子さん。青系、緑系、茶系などさまざまな色が織り込まれた漢方染めのしゃれ袋帯との組み合わせは、とても新緑の季節らしいコーディネイト。それに合わせた白と水色でバイカラーになった帯締はとても出番が多い小物なのだとか。「どんなきものに合わせても新緑の季節らしさが出るので、とても重宝している帯締なのです」

 
繊細な四季がある日本ならではの楽しみ
 季節に合った素材や色柄を用いるのは、あらゆる「衣」において行われていることですが、とりわけ繊細に季節を取り入れ、楽しもうとしてきた「衣」は、きものをおいてほかにありません。さまざまなきものに触れるにつけ、それを確信されることでしょう。

 袷(あわせ)、単衣(ひとえ)、夏物といった素材や仕立て方の変化はもちろん、季節に沿った色選びや小物合わせ、そして柄の取り入れ方のデリケートさといったら…。四季が細やかに移ろっていく日本だからこそ、生まれた感覚ではないかと思わされます。

 たとえば、四季の花々を取り入れたきものや帯は数知れずありますが、「春といえば桜」で済ませないのが日本人。桜は日本を象徴する花の一つですから、年中用いてもいいともいわれます。それでも、春に着るのならば本物の桜が咲き始める瞬間まで、とこだわってきました。

 きものの季節感は先取りが基本。その草花が咲き誇る前にきものに取り入れ、花開く時を待つ心を表現、楽しんできました。そして実際にその草花が咲いたなら、楽しむ心はそちらに渡す。文明の力で季節感が薄らいでいる現代でも、その心を忘れない――。それがきものなのではないでしょうか。


小物しだいで変えられる季節感
 季節の柄にこだわるのは、それはそれは楽しいものですが、一年をまっとうするにはかなりの衣裳持ちにならねばなりません。けれど、手持ちのきものでも季節感を十分に表現して楽しめます。

 その方法の一つが色選び。新緑の今ならば、爽やかさにこだわって、きものと帯の合わせ方を考えてみましょう。このときにポイントとなるのは明度差。きものが白っぽい色ならば帯は濃い色。きものが濃い色ならば帯は薄い色といったように、明度をはっきりさせると、爽やかな印象をつくりやすいものです。

 また、暖かみを感じさせる色のきものや帯でも、そこに合わせる帯締、帯揚で新緑の季節らしさを演出できます。効果的なのは「青」。今回ご登場くださった眞島さん、前田さんが用いた帯締、帯揚がまさにこの青ですが、ベージュ系のきものに「青」を差し色するだけで、涼やかな風が吹いてくるような印象になります。

 帯締や帯揚はほんの少し見えるだけの小物ですが、ここに持ってくる色しだいで、季節感を変えられる。これもきものならではの楽しみではないでしょうか。

長沼静きもの学院

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