歌舞伎いろは

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春を閉じ込めたような訪問着 春を閉じ込めたような訪問着

春を閉じ込めたような訪問着

春を閉じ込めたような訪問着
牡丹、あやめ、テッセン、菊、紅葉などなど、豪奢に四季の花々があしらわれた訪問着。白地に爽やかな色で描かれ、まさに春をそのまま閉じ込めた絵画のような逸品です。帯は藤、松竹梅、牡丹、なでしこなど。

 
新緑の季節限定の贅沢訪問着

新緑の季節限定の贅沢訪問着
4~5月に咲くドウダンツツジが贅沢にあしらわれた訪問着に、緑の美しいグラデーションで織られた佐波理綴の帯。こっくりと、けれど新緑らしい目に涼やかな逸品です。

 
この季節を存分に味わえるモチーフ
 新緑の季節らしい柄を挙げてみましょう。きもので多く用いられる模様のなかでは、牡丹、ハナミズキ、花と鳥を合わせたもの、若竹、そして御所解(ごしょどき)模様など。花ならばあやめ、かきつばた、花菖蒲、桐、橘。藤もこの季節らしい植物ですが、藤の花そのものだけでなく、藤色のきものや帯、小物も新緑の季節らしさが存分に表れるアイテムです。

 またこの季節に行われる行事にちなんだモチーフも素敵です。花筏(はないかだ)、端午の節句にちなんで矢筈(やはず)や鎧、京都の葵祭にちなんで葵文や御車、山車なども、きものでしばしば用いられています。

 こういった柄はきものはもちろんですが、帯に用いるととても楽しいもの。なかでも塩瀬の染帯には、お太鼓部分にこういった柄を手描きされたものが多く見られますので、気に入ったものが見つかったら楽しんでみてください。

 小物に「青」を用いると新緑の季節らしさが表現しやすいとお話ししましたが、特に水色、青磁色、トルコブルーなどはとても爽やか。ほかの明るい中間色も素敵です。

 左はさまざまな花々があしらわれた、まさに春らしい、新緑の季節らしい訪問着です。実は四季の花々が用いられていますので、コーディネイトによっては秋でも冬でも、それぞれの季節らしさは演出できるのですが、やはり美しい花たちの華やかさは、今の季節にぴったり。春こそ、フォーマルな場ではこういった華やかで豪華なきものを、そしてカジュアルな場では眞島さんや前田さんのようにお気に入りの紬のきもので、思い切り楽しみたいものです。


温度変化に対応した着付の工夫
 新緑の季節は、気温の変化が大きい時節でもあります。それでも5月までは冬と同じ袷を着るのが基本。そのなかでも快適にきものを楽しむには、いくつかコツがあります。

 たとえば下着。冬の長襦袢は無双(裏地のついたもの)を着ますが、暖かくなってきたらこれを単衣のものに。これだけでもずいぶんすっきりと着ることができます。

 また、汗ばむ季節になってきたなら、着こなしも工夫しましょう。基本は身八つ口(脇に開いた切れ目)に風がとおるようにすること。きもの初心者は、着崩れを心配してきっちりと合わせがちですが、空気も少し着込むような気持ちで着付をすると、きもののなかにも風が通るようになります。少し早いかもしれませんが、気持ちは‘動くクーラー’。そんなつもりで着付けてみましょう。

春を閉じ込めたような訪問着

 帯付き姿(きものと帯のみ)で出かけることが多い季節ですが、それでも日によって、または日が暮れると肌寒い風が…ということも。そういうときに重宝するのがショールです。この時期は軽やかな色みの薄手のウールや、レースのものなどが活躍します。
 また、透ける素材の道行(コート)を誂えておくと便利です。夏きもので用いられる紗やレースなどの道行は、風除けになるだけでなく、大切なきものや帯を汚れから守る「塵よけ」の役割も果たしてくれるのです(これはショールも同様)。洋服でいえばスプリングコートや薄手のカーディガンといった感覚でしょうか。春先から秋の単衣の季節ごろまで、幅広く活躍してくれる一枚です。

長沼静きもの学院

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