歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



豪華な絵羽模様が広がる
衽(おくみ)と前後の見頃、縫い目をまたいで一枚の絵柄として描かれた「絵羽模様」は、留袖の豪華さと格を表す特徴の一つ。また、絵羽模様のきものは、裾回しも表地と同じ生地で仕立てるのが決まりとなっています。

 

5つの染め抜き日向紋
紋の形を白抜きにして墨で縁取った、最も格の高い紋が「染め抜き日向紋」。一つ紋は背紋のみ、三つ紋は背紋+袖紋、そして黒留袖に必須なのが、背紋+袖紋+抱き紋(胸紋)の五つ紋です。左右の紋の位置を見てきっちり着付を。

 

昔の礼装の名残、比翼仕立て
衿元に白羽二重の付け比翼を見せて着付けるのが黒留袖です。色留袖も五つ紋の場合は同様にします。比翼はきものを重ねて着ているように見せるためのもので、色は白。留袖は礼装ですから、半衿ももちろん白が決まりです。

 

金糸銀糸で織り出した袋帯を
「来年は娘の結婚式、なんだか予行演習みたいで…」と言う青山さん。母親として式に臨むあたり、祝う心を松竹梅や吉祥文様で表しながらも、品のある細かな小柄の模様で目立ちすぎません。あくまでも主役の花嫁を立てる奥ゆかしさが表現されています。

 
イブニングドレスに匹敵する第一礼装
 きものの裾の部分にだけ模様が入り、背、両胸、両袖に紋を入れた「留袖」は、洋装でいえばイブニングドレスに匹敵し、どのような正式な場所にでもかなうミセスの第一礼装です。

 とはいえ、これが広くに着られるようになったのは、さほど古いことではないようです。江戸時代の女性たちが未婚時代に着ていた振袖を、結婚後は袖を切って使ったことに始まったともいわれますが、裾にだけ模様の入った柄付けのきものは、江戸後期に芸者の間ではやったものともいわれます。

 いずれにしても、黒地の紋付が女性用の礼装になったのは明治以降のこと。比較的新しい習慣のようです。


黒留袖には五つ紋が必須
 留袖には大きく分けて、黒地を用いた「黒留袖」と、色地を用いた「色留袖」の二つがあります。いずれも五つ紋で最上級の礼装になりますが、ことに黒留袖は五つ紋がお約束です。五つ紋の入った留袖は第一礼装ですから、たとえば、皇居で催される園遊会にも着ていくことができるということです。ただし、皇室では黒は着ないことから、色留袖に限られます。

 では、黒留袖はいつ着るのでしょうか。よくご存じのように、身内の結婚式と披露宴ということになりましょう。逆にいえば、身内の結婚式や披露宴に出席するのであれば、黒留袖を着ていくのが最上級の礼。欠かせないきものともいえます。また、仲人さんもこの黒留袖が必須アイテム。花嫁に付き添われるのですから、落ち着いた吉祥文様を選ぶといいかもしれません。

 近頃では教会での結婚式も一般的になっていますが、そういう場合でも身内であるなら黒留袖で差し支えありません。現在の風潮を反映して、洋風の会場に合った柄付けの留袖も数多く考案されているくらいです。カサブランカやバラといった洋花をあしらったものは、教会の花とともにあっても違和感がありません。


留袖にはなぜ比翼がついているのか
 初めて留袖を手にした人が「これは何?」と不思議そうな顔をするのが、「比翼」です。きもの本体の衿、袖口、振り、腰から下の部分にだけ、あらかじめ付けられている白羽二重の重ねがそれですが、これも留袖の格を表すものの一つといっていいでしょう。

 かつては礼装といえば二枚重ね、花嫁であれば三枚重ねと、きものを重ねて着ることが一つのしきたりでした。おめでたいことが重ねてあるようにと願ったからといわれますが、それがしだいに簡素化して、重ねて着ているように見える比翼仕立てになっていったようです。

 比翼仕立てであれば、一部分とはいえ、二枚重ねになっており、また裾廻し(八掛)も共布で仕立てられるのが基本ですから、その分も加わって、留袖はちょっと重ためです。ですから着付けるときは、いつも以上に腰紐をしっかり締めるようにしましょう。
知っておきたい留袖の家紋

 色留袖には五つ紋のほかに三つ紋、一つ紋を入れる場合もあります。五つ紋であれば第一礼装。ある程度格式のある場にこそふさわしいお召し物に。パーティ着などとして留袖を着る場合は三つ紋にしておくと改まりすぎません。一つ紋であればほぼ訪問着と同格ですから、着用の機会も増えます。
 紋は、正式には母方の紋を染め抜きで入れますが、レンタルなどの場合は紋の部分が石持ち(白丸)になっていまいすので、そこにシールの紋を貼ればOK。近頃の家紋シールは上出来ですから、十分にそれで用が足ります。

長沼静きもの学院

バックナンバー