使う組台によって丸い紐や平らな紐、立体的な柄のある紐などができます。糸を巻きつけた玉の動かし方の違いによっても。一番上の緑×朱のものは「三回網代」。二番目のオレンジ色は柄が立体的になった「笹波唐組」。三番目は「萩の道」。「木の葉」と名づけられた一番下の帯締は、まさに葉が重なりあっているような立体的な一本です。

 

まるで一枚の絵のような柄や文字を書き込むように組むこともできます。写真は一番上から名称「江戸切り子」、「群れ鶴」「幾何学文様」「水面」「青海波」「流水紅葉に霞」。

 

自分のお気に入りのきものや帯に合わせて、こだわりの帯締もつくれます。①は松に屋形船が織り出された帯に合わせて組んだ帯締。お太鼓の松の柄を帯締に組み込み、前柄とお太鼓の柄の調和を考えて組んだものです。帯締に屋形船の色と松の柄を取り込みました。②③については、右の本文でご覧ください。

 

くみひもの作品は帯締だけではありません。趣味で居合いをしていらっしゃる方は刀の下げ緒になさったり、乗馬が趣味の方は愛馬の轡(くつわ)にと、長い時間かけて組まれた方もいらっしゃいます。“好き”の気持ちが、組まれた作品に込められ、また、作品を使うことでそのときの気持ちをよみがえらせることもできます。

 
繊細な絹糸が一本の帯締に
 日本には様々な技法によってつくられる美しい作品が数多くありますが、なかでも和の装いと縁の深いのが「くみひも」。玉に付けた絹の糸を交差しながら組んでいくという技法で組み上がるくみひもは、シンプルだからこそ無限の広がりを持つ工芸品です。

 心を込めてつくられた手組みの帯締に出会った経験はありませんか。それは、配色や柄も、糸のみで表現されたとは思えないほど美しく、また使いやすいものです。そんな帯締を、自分で色の組み合わせ、柄の見せ方などを工夫し、でき上がりを想像しながら組んでいく…、そんな体験をしてみませんか。

誰でも、いつでも始められるくみひもの楽しみ
 「長沼静きもの学院」くみひも科で長年、教えていらっしゃる大野静穂先生は、お気に入りのきものや帯などに帯締を合わせることで、一つのストーリーを表現していくことを、楽しみの一つとしています。

 たとえば、帯と帯締を合わせた左の写真の②。竹の柄のきものには、八掛に2羽の雀が描かれていました。竹に雀、相性のよい組み合わせですから、帯も雀の柄とすぐに決めました。その雀の可愛らしいこと! 仲よくおしゃべりでもしているかのように、竹に止まらせてみたい…。そして、雀が浮かび上がるようなおとなしい色の竹の帯締が生まれました。

 ③のきらめくような桜柄の帯は、大野先生にとって大切な恩師との絆の詰まった思い出深い帯の一つ。その大切な帯のために帯締を組んでいた時間はもちろん、帯締を締めるたびに恩師への感謝の気持ちを思い出します。

 「くみひもはその人の気持ちが出ます。以前、きもの作家の方から、“もの言わぬものに、もの言わせるものづくり”という言葉をいただいたことがあり、くみひもにも通じる言葉と思い、大切にしています。くみひもは自分と向き合う時間を与えてくれるという意味でも、とても楽しみながら技術を活かせる趣味の一つとなると思いますよ」。

長沼静きもの学院

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